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イントロダクション

 

「傷ができたら、乾かしてかさぶたを作って治す」——かつてはこれが常識とされてきました。しかし、現代の医学において創傷管理の基本原則は、「湿潤環境(モイスチャーヒーリング)」を維持して、体が本来持っている自然治癒力を最大化することへと大きくシフトしています。

この座談会では、外科、内科、産業医、そして訪問診療という異なるフィールドで第一線を走る3名の医師が集まり、現場での実例を交えながら「なぜ乾燥させてはいけないのか」、そして「どのように湿潤環境を管理すべきか」について徹底的に語り合います。

 

【参加医師の自己紹介】

医師10年目。大学病院や市中病院で肺がん手術を中心に行い、救急外来や企業の産業医も兼務。救急外来での外傷や手術創の管理に日々関わっている。

医師17年目。基幹病院で腎臓内科外来や入院、透析管理に従事。バスキュラーアクセスや腹膜透析カテーテル挿入術に伴う創部管理、透析患者の外傷やスキンテア対応の経験が豊富。

医師11年目の外科専門医。肺がん手術を専門とし、QOL改善の研究や訪問診療も実践。褥瘡や手術創など幅広い創傷管理を行っている。


テーマ①傷の種類(切り傷・擦り傷など)

 

——まずは基本的なところから伺いたいのですが、傷にはどのような種類があるのでしょうか?

 

傷って、主なものですと、大きく4種類に分けられるんです。切創、擦過創、刺創、裂創。この4つが基本かなと思います。切創はナイフやガラスで鋭く切れる傷で、縫合しやすくきれいに治りやすい。擦過創は転倒したときのすりむきで、浸出液が多いから洗浄と湿潤が大事。刺創は釘や注射針で刺さるもので、細菌などの内部感染が怖いですね。裂創は事故なんかで皮膚が裂ける傷で、止血や縫合、場合によっては形成外科的処置が必要になることもあります。

なるほど。基本の4つに加えて、“挫創”も入ると思うんですよね。
透析患者さんだと転倒して、皮膚や皮下組織が押しつぶされたような挫創をよく見ます。創縁が不整で感染や壊死のリスクも高い。だから十分な洗浄とデブリードマンが大事になります。深部感染があると閉鎖せず、抗菌薬やガーゼドレッシングで経過を見ることもありますね。

そうですね、挫創も代表的ですよね。主なものを上記では挙げましたが、傷には種類がまだ多数あり、他にも割創や挫滅創、剥脱創、咬創、そして稀ですけど銃創や爆創も含まれます。

外科医として日常的に出会うのはやっぱり手術創です。切創に分類されるんですが、創縁がきれいなので治癒も早くて瘢痕も少なめ。逆に裂創や挫滅創は創縁が不整で汚染リスクが高いので、治癒に時間がかかるんです。

そうですよね。傷の種類によって、治り方も変わってきます。例えば、同じ“ぶつけた傷”でも、裂創と挫滅創では治り方が全然違います。特に挫滅創は“汚い”ことが多いから、洗浄や整える処置が必要になってくる。

——みなさんは、珍しい傷に遭遇したことはありますか?

 

珍しい傷については…あまり経験がないんですけど、透析シャントに切創が及んでいて、残念ながら救命できなかったケースはあります。

私は、胸部に包丁が刺さった症例が印象に残っています。左前胸部の第6肋間から胸腔に入っていて、幸い心臓や大血管は無事でしたが、肺裂創がありました。胸腔ドレーンを入れて、胸腔鏡で縫合して1週間ほどで退院しました。やはり、見た目より内部が重症ということは少なくないですね。

海外の先生の話を聞くと、銃創や爆創は日常的にあるそうですが、日本では珍しいですよね。大事なのは、傷の種類によって対応が変わること。そして“受診の判断”。出血が止まらない、深い、汚れている、咬まれた、しびれや動かしにくさがある、糖尿病(傷が治りにくい)や抗凝固薬を使っている場合は必ず受診してほしいですね。家庭では、清潔な布で圧迫止血、水道水でやさしく洗う、清潔なもので覆う。この3つを基本にして、無理に異物を抜いたり、皮膚を剥がしたりせず、指輪や時計は早めに外してほしいと思います。

 

——傷の種類によって、対応や治り方がずいぶん違うんですね。ここまでのお話を整理してみましょう。

 

「傷の種類(切り傷・擦り傷など)」のまとめ

  • 傷は種類によって処置・治癒過程が大きく異なるため、正しい分類が重要である。
  • 臨床で遭遇するのは切創・裂創・挫創が多く、それぞれ感染や治癒の難しさに応じた対応が求められる。
  • 家庭での基本的な対応は「圧迫止血・流水洗浄・清潔な覆い」であり、リスクがある場合は早期受診が勧められる。

テーマ②傷の治療の基本メカニズム

——では、傷はどのような仕組みで治っていくのでしょうか。身体の中で起きていることを教えてください。

 

傷の治癒は、体が持つ“修復プログラム”ともいえる4つの段階で進みます。

①出血・凝固期:受傷直後から数時間で血管が収縮し、血小板が集まってフィブリンの網を作り出血を止めます。この網が細胞の足場になります。
②炎症期:受傷後1〜3日で、白血球が集まり細菌や壊死組織を掃除します。ここでは発赤や腫脹、熱感、疼痛といった炎症の四徴が見られます。

③増殖期:受傷後数日から数週間。線維芽細胞がコラーゲンを作り、新しい血管が伸びて肉芽組織が形成され、上皮細胞が傷口を覆います。
④成熟・再構築期:コラーゲンが再配列され、瘢痕が落ち着いていきます。最終的な強度は健常皮膚の50〜80%程度に回復するとされています(参考1)。

この自然の流れを妨げないことが大切です。

おっしゃる通りですね。私が注意しているのは、初期段階でのフィブリン血餅の形成です。低体温は凝固を妨げるので、過度に冷やさないようにしています。
それから、消毒に関しても意識しています。消毒薬は細菌だけでなく線維芽細胞やマクロファージといった治癒に必要な細胞も傷つけてしまいます。ですので、基本は洗浄で異物や細菌を取り除くこと。自然な治癒のメカニズムを邪魔せずサポートするのが大事だと思います。

私も基本の流れは常に意識しています。
2019年のレビュー論文では、創傷治癒は“人体で最も複雑なプロセスの一つ”と表現されていました(参考2)。この4段階が改めて細胞レベルの変化によって引き起こされていることを認識しました。この論文でも機械的応力や酸素濃度、成長因子といった微小環境が細胞活性を大きく左右することも指摘されています。

だからこそ、日常診療では過剰な消毒を避け、局所環境を整えることを意識しています。
さらに、糖尿病や末梢動脈疾患を持つ患者さんでは血流や代謝が影響するので、全身状態を踏まえて治癒の遅延を予測する必要があります。

まさにそうですね。実際、糖尿病や動脈硬化、喫煙習慣があると炎症期が長引いたり、増殖期に十分な肉芽ができにくくなります。高齢者では細胞分裂やコラーゲン合成の低下で、再構築期に時間がかかり、瘢痕の強度も若い方に比べて低くなります(参考3)。

一方で局所環境も重要で、酸素や栄養が届くこと、適度な湿潤環境があることが細胞活性に直結します。逆に乾燥させすぎたり、強い消毒をすると治癒のプログラムがスムーズに進みません。全身状態と局所環境を整えることこそが、自然な修復プログラムを最大限に支える方法だと思います。

 

——身体の中では、とても精密な修復の流れが進んでいるのですね。ここで一度、ポイントを整理します。

 

「傷の治療の基本メカニズム」のまとめ

  • 傷の治癒は体が備える自然の修復プログラムであり、基本の4段階(①出血・凝固期、②炎症期、③増殖期、④成熟・再構築期)を理解することが重要である。
  • 医療者はこの流れを妨げず、消毒や冷却を含めた処置を適切に選び、局所環境を整えることでサポートする。
  • 患者さんの背景や全身状態を考慮した上で治癒過程を見守り、必要に応じて支援することが臨床で求められる。

 

テーマ③乾燥と湿潤の比較:メリット・デメリット

 

——治療方法には、乾燥させるケアと湿潤を保つケアがありますが、どのように考えればよいのでしょうか?

乾燥と湿潤、どちらが良いかという二者択一ではなく、それぞれに特徴があります。
乾燥ケアは従来のガーゼ法で、かさぶたが形成され一時的に細菌侵入を防ぐ利点があります。ただし、新しい皮膚細胞や成長因子が壊れやすく、かさぶたが剥がれると再出血や痛みを伴い、治癒速度も遅く、瘢痕も目立ちやすい傾向があります。

一方、湿潤ケアはモイスチャーヒーリングとも呼ばれ、ドレッシング材で適度な湿潤環境を維持することで治癒が早まり、痛みや瘢痕が軽減します。

さらに、神経末端が湿潤環境で保護されることで痛みが抑えられるとも言われています(参考4)。加えて瘢痕が目立ちにくいです。ただし、過剰な湿潤は細菌増殖のリスクがあるため、材質や交換頻度に注意が必要です。
『創傷・褥瘡・熱傷ガイドライン2023』では、湿潤療法を推奨する流れが主流です。ただし糖尿病や免疫抑制状態など感染リスクの高い場合は、適切な判断が不可欠です。

私も、創部の状態と全身状態を合わせて考えることを重視しています。術後の管理では湿潤環境に保つことで痛みや瘢痕を軽減し、回復がスムーズになる実感があります。
ただし感染リスクが高い場合は、湿潤療法だけを安易に選ばず、まず感染の有無を評価し、一時的に乾燥管理で感染を抑えてから湿潤管理へ移行することも必要です。屋外での外傷では清潔を保つのが難しいため、湿潤管理のリスクを考慮する場面もあります。

おっしゃる通りです。外傷や糖尿病などリスクの高い状況ではまず感染評価が前提となります。清潔保持や感染徴候がないことが確認できれば湿潤の利点を活かせますが、汚染外傷では初めは乾燥で管理し、感染が落ち着いてから湿潤へ移行する流れを取ることがあります。

腎臓内科の現場では糖尿病透析患者の足の創を診る機会が多いのですが、ほんの小さな創から壊疽や切断に進行するケースも珍しくありません。そのため、感染コントロールを最重視しています。

特にシャント穿刺部では、手洗いや皮膚消毒を徹底し、発赤や硬結を必ず確認します。足の創部についても滲出液や壊死の程度を見極めて被覆材を選び、感染リスクが高い場合は閉鎖的ドレッシング材をすぐには使わず、経過をみながら選択します。血流不全がある場合は形成外科や血管外科と連携して対応することが重要です。

やはり透析患者さんのようにリスクが高いと、創の管理も単純ではなく、他科との連携が不可欠になりますね。結局は傷の形状や患者さんの背景に応じて、乾燥か湿潤かを柔軟に選ぶことが必要だと思います。

 

——状況によって選び方が変わるのですね。ここまでのお話をまとめてみましょう。

 

「乾燥と湿潤の比較:メリット・デメリット」のまとめ

  • 乾燥と湿潤のいずれも一長一短であり、状況に応じた適切な選択が必要である。 
  • 傷の治療は基本的に湿潤療法が推奨されるが、感染リスクが高い症例では乾燥管理を経てから湿潤に移行するなどの柔軟な運用が求められる。
  • 創傷管理は「創の状態」と「患者の全身状態」の両面を評価する。必要によって多職種との連携を含めた包括的な対応が確実な治癒につながる。

テーマ④乾燥させないケアの推奨と実践ポイント

 

——乾燥させないケアについて実戦のポイント教えてください。

乾燥させないケアは、創を湿潤な環境に保ちながら治癒を促す方法です。全ての傷に望ましいわけではありませんが、創傷治癒のエビデンスが示す大きなトレンドは「乾燥させず、湿潤にする」ことです。

従来の「かさぶたを作る」方法では、新しい細胞の動きが妨げられ治癒が遅れたり、剥離時に再出血のリスクがあります。これに対し、湿潤環境では浸出液に含まれる成長因子や免疫細胞が働きやすく、上皮細胞が滑らかに移動して早く治癒します。

また、湿潤ドレッシングは露出した神経を保護するため、疼痛の軽減にも有効です。さらに、過剰な炎症やコラーゲンの乱れを防ぎ、結果として瘢痕が目立ちにくくなります。専用のハイドロコロイドやハイドロジェル製品を用い、滲出液量に応じ1〜2日ごとに交換することが推奨されます。
先生方の普段実践されている「乾燥させない」ケアの実践ポイントについてお聞かせください。

やはり一番重要なのは清潔さですね。初期は十分な洗浄(外傷なら流水/術創なら術後48時間までは滅菌生理食塩水)が必要です。48時間以降は、創が開放・排膿処置後であれば水道水で可としています。いきなり密閉せず、菌量コントロール後に湿潤へ移行すると安全です。
また、「ただ湿らせればいい」わけではありません。乾燥より湿潤の方が上皮化は速いですが、過湿による創縁の白ふやけ(浸軟)は逆効果です。「moist but not macerated」を守るため、滲出量に見合う吸収力の材料を選ぶことが大切です(参考5)。

たけちん先生、解説ありがとうございます。あらた先生の「moist but not macerated」はとても大切ですね。浸軟してくるようであれば、ドレッシング材など対応の変更が必要です。
乾燥させないポイントとしては、滲出液の状態を見ながらドレッシング材の特性や経過に応じて、不要な交換を避けるというところでしょうか。これは、感染がない、もしくはコントロール後の話ではありますが。

乾燥させないためには、上皮化を助けるドレッシング材の選択と、交換時期が大事になってきますね。先生方は創傷によってドレッシング材をどのように使い分けているでしょうか?

ドレッシング材の選択は悩ましい部分です。私は、創の深さ・滲出量・感染リスクを主な軸に使い分けています。浅い創ではハイドロコロイド、滲出液が多い場合はポリウレタンフォームを中心に使います。このほか、ハイドロファイバーや銀含有のものもありますね。

外科でも、施設や術者によりドレッシング材は異なり、もちろん創の状態によっても変わってきますね。

私も同様の使い分けです。

・滲出液が少ない浅い創:ハイドロコロイドやフィルムで上皮化を守り、貼付期間を長くして交換回数を減らします。
・滲出液が中〜多いとき:フォーム材を中心にします。浸軟のサインがあれば、吸収力が強いフォームやハイドロファイバーに変更します。
・深い創:アルギン酸やハイドロファイバーで創底を軽く充填し、フォームで蓋をする二層構造にすると、乾燥させず浸軟させずのバランスが取りやすいです。

感染が疑わしい場合は、短期間だけ銀含有材を使うことがありますが、長期に続けることは避けています。

結局のところ、材の「銘柄」よりも、その創に適した湿り具合をどう作るかが一番大事です。滲出を見て吸収力を調整し、交換は必要なときだけ。患者さんには「痛みが強くなる」「嫌な臭いがする」「材が浮く」などのサインがあればすぐ教えてもらい、一緒に調整していくようにしています。

何を使うかという種類だけでなく、どれだけの期間使うか、も大事ですね。不必要に長く貼付することで、浸軟や粘着による皮膚の荒れなど二次的な問題も起こり得ます。あらた先生のおっしゃるように、ドレッシング材の種類だけでなく、患者さんの訴えや、傷の見た目、臭いなどから総合的に判断することが大切ですね。

 

——具体的な実践ポイントがよく分かりました。今日のポイントを改めてまとめてみましょう。

 

「乾燥させないケアの推奨と実践ポイント」のまとめ

  • 創傷治癒促進、疼痛軽減、瘢痕予防に有効な湿潤環境の維持は、現代の創傷ケアにおける基本原則である。適切なケアにより、細胞の活性化と自然治癒力の最大化が期待される。
  • 「moist but not macerated」の原則を厳守することが成功の鍵である。創の清潔保持と、滲出液量に応じた吸収力の適切な調整により、過湿による浸軟を確実に回避しなければならない。
  • ドレッシング材は創の深さ、滲出量、感染リスクに基づき選択され、材料の銘柄よりも「適切な湿り具合」の維持を最優先する。患者の訴えや創部の変化を総合的に判断し、ケアを柔軟に調整することが重要である。

 ——今日は、傷の種類から治癒の仕組み、そして乾燥と湿潤の考え方まで幅広く伺いました。最後に全体のポイントをまとめてみましょう。

座談会まとめ

傷は種類によって対応が大きく異なり、治癒は体の修復プログラム(4段階)に沿って進む。治療にあたっては、創部の深さ・汚染度だけでなく、糖尿病などの全身状態や基礎疾患を考慮することが、適切な初期処置と治癒遅延の予防につながる。

現代の創傷ケアでは、治癒促進や疼痛・瘢痕の軽減を目的に、乾燥を避けた湿潤環境の維持が基本原則とされている。ただし重要なのは「湿潤だが浸軟させない」状態を保つことであり、滲出液量に応じたドレッシング材の選択と、創縁の浸軟を防ぐ配慮が欠かせない。

感染リスクが高い場合や汚染された外傷では、治癒促進よりもまず感染制御を優先し、必要に応じて一時的に乾燥管理を行うなど、状況に応じた柔軟な対応が求められる。重症例や基礎疾患を有する患者では、専門医や他科と連携した包括的な創傷管理が、安全で確実な治癒につながる。

参考文献

  1. 『Wound Repair and Regeneration』(Bioengineering)
  2. 『Wound Healing: A Cellular Perspective』(Physiological Reviews)
  3. 『Factors Affecting Wound Healing』(Journal of Dental Research)
  4. 『Moist Wound Healing with Commonly Available Dressings』(Advances in Wound Care)
  5. 『Moist Wound Healing with Commonly Available Dressings』(Advances in Wound Care)
  6. 『Binding of arylpiperazines, (aryloxy)propanolamines, and tetrahydropyridylindoles to the 5-HT1A receptor: contribution of the molecular lipophilicity potential to three-dimensional quantitative structure-affinity relationship models』(Journal of Medicinal Chemistry)

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