座談会:医師のSNS炎上リスクと対策

座談会:医師のSNS炎上リスクと対策

投稿日:

目次

  • 医師紹介
  • テーマ1:SNSを始めたきっかけ・発信の初期段階
  • テーマ2:実名、匿名どちらがいい?
  • テーマ3:やらかし事例で学ぶ炎上リスク
  • テーマ4:対策と賢い使い方
  • 最後に:座談会全体のまとめ

医師紹介

ドクターK@眼科医
眼科専門医。主にX(旧Twitter)を通じて
目に関する啓発・情報発信を行っており、
SNS歴は5年以上。炎上対策にも精通しており、
これまで炎上経験はほとんどなし。

あらた(大学.呼吸器外科)
医師11年目。大学病院で呼吸器外科医として肺がん手術を中心に担当。育休取得の経験を機に、若手外科医に向けてSNS(XやFacebook)で家庭とキャリアの両立について発信中。

Dr. LION@美容皮膚科医
医師7年目。自由診療クリニック院長かつ、再生医療系の上場企業で顧問兼研究者。Xとnoteで「すべての医師に経済的自由を」を掲げて発信し、医師の副業や働き方改革に積極的に関与している。


テーマ1:SNSを始めたきっかけ・発信の初期段階

SNSって、興味はあるけど炎上が怖いとか、病院にどう思われるか不安で始められない方も多いと思います。ただ、やってみると意外な広がりやチャンスがあるんですよね。まずは、皆さんの発信を始めたきっかけについて教えていただけますか?

私は2年前に本格的にXを始めました。きっかけは“なんとなく情報発信してみたい”という気持ちでしたが、勤務医の先生方と交流するうちに、副業や働き方についてアドバイスするようになりました。

LION先生の“なんとなく始めた発信が、人脈や影響力に変わっていった”という話、共感します。最初は戦略的にやらないといけないと思ってたけど、結局は試行錯誤の連続ですよね。

そうですね、フォロワーが2000〜3000人あたりで一番伸びた時期に、DMでお声がけをいただくことが増えました。当時は独身だったので、すべてのオファーに会いに行っていました。

まず行動してみることで、見える景色が変わるのはありますよね。私もコロナ禍で外出が減ったのを機に、将来の不安からWordPressでブログを始めたのがきっかけです。副業にはつながりませんでしたが、医局の外の方と出会えたことが一番の収穫でした。

SNSは、価値観の合う仲間を探すのに最適なツールですよね。所属組織の中では“ハズレ値”に見える人でも、SNSでは仲間が見つかる。

その通りですね。私もSNS経由で呼吸器外科のオフ会に参加し、スキルアップセミナーを企画することができました。結果的に新しい術式の導入にもつながり、今の病院では前例のなかったことが実現しました。

僕は専攻医1年目のときに、オンライン眼科という眼科版Wikiのようなものを作りたくてブログを始めました。ただ、拡散力の点でXが必要だと感じてSNSに踏み切ったんです。今ではブログよりSNSの方が反応があり、啓発活動の中心になっています。

ドクターK先生のように、ブログからSNSへと発展していく流れもあるんですね。発信を続けてきたからこそ、言語化が洗練されていると感じました。

私が得た最大のものは“人脈”“影響力”です。Xで出会った先生方とAI関連の事業を立ち上げたり、オンラインサロンで仲間を見つけたりと、SNSをきっかけに広がった縁が本当に大きいです。

SNSのおかげで、自分が知らなかった選択肢に出会えたという点は大きいですね。外科医として家庭との両立に悩んでいた時期に、新しい働き方やキャリアの可能性を知ることができました。

SNSを通じて得たのは、仕事の依頼、患者説明の上達、質問への回答力、そして自分の中の疾患の解像度の向上です。臨床に直結するスキルアップにもつながっています。

ドクターK先生のご著書『スマホ時代の「眼」メンテナンス』も拝見しましたが、まさに発信を続けた結果の集大成だと感じました。本の出版にもつながるのですね。

はい。実はその前にKindleで近視に関する本を出していたのですが、オンライン眼科というサイトを通じて出版社から声がかかり、商業出版に至りました。本を書くのは特別なことではなく、今は多くの医師が取り組んでいる印象です。

・キャリアの選択肢と人脈の拡張
SNSを通じて普段出会えない他施設・他分野の医師と
交流できる機会が増え、
プロジェクトやオフ会、オンラインコミュニティを通じた
新たな道が開ける。
医局や病院という枠を超えて視野が広がり、成長や転機につながる。

・情報発信による学びとスキルアップ
発信を通じて疾患理解や説明力が向上。
フォロワーからの質問への対応やアウトプットの機会が、
知識の整理や言語化スキルの向上に直結する。
臨床に活かせる力として蓄積される。

・発信が仕事や出版のチャンスに
SNSでの活動が出版社の目に留まり書籍化や講演依頼につながることも。Kindleなどのセルフ出版も選択肢となり、
発信が副業やビジネスチャンスの起点となるケースもある。


テーマ2:実名、匿名どちらがいい?

次によく医師の方に聞かれることとして、「実名、匿名どちらがいいか?」という話題があります。お二人は、周囲のことも踏まえてご自身の考えはどうですか?それぞれどんなメリットがあり、どのような方にどうおすすめされるでしょうか?

実名のメリットとしては、現在の知名度を活かせたり、クリニックのPRに使えたり、信憑性が高まりやすいことが挙げられます。
匿名のメリットは気楽に始められる点。ただし垢バレのリスクがあり、信頼性を得にくいため投稿内容には注意が必要です。
僕は専攻医1年目のとき、知名度も権威もなかったので匿名で始めました。

ただ、医療的な内容に限定していて、悪口を書かないのであれば実名の方が良いと思います。

私は匿名ですが、過去にアカウントを特定されてバイト先を解雇された経験があります。
匿名はキャラ作りがしやすく、発言の幅も広がりますが、垢バレのリスクは常にあります。
一方で実名は信頼度が上がり、クリニックの集客やスタッフ募集にも活用できます。
ただ、有料noteなどを用いたマネタイズはやりにくくなりますね。

たしかに、クリニックとリンクしている方は、実名で広告塔のような役割を果たせますよね。
実名の監修業務などにもつながることがあると思います。もともと権威性がある方には特にメリットが大きそうです。

アカウントを特定されて解雇…どのような経緯だったのですか?(話せる範囲で構いません)
私自身、実名を出してから発信の歯切れが悪くなった自覚もありまして…。
副業や事業の規模・スパンによって、実名か匿名かの選択は変わってくる気がします。

私は最初、ハンドルネームと手書きイラストのアイコンで始めました。
同僚にブログや副業をしている人がいなかったので、バレたら恥ずかしいという思いがあり、居住地などもダミーでコソコソと…。
匿名時代は自由につぶやけて、仲間もできて良い居場所になっていました。
その後、市民講座を始める際に告知目的で実名・実写アイコンに切り替えました。
所属施設を出した方が信頼される、フォロワーが増える、仕事につながるかもしれないという期待もありました。
結果として、学会発信とのリンクは強くなりましたが、仕事につながったという実感は正直あまりないです。
やはり、匿名・実名にかかわらず、価値ある情報を発信し続けることが重要だと感じています。
今から始める方には、まずはハンドルネームから始めてみるのが良いとお伝えしています。

私が解雇されたときは、チャット診療の現場で警鐘の意味も含めて投稿していたのですが、それが経営陣の逆鱗に触れたようです。
GoogleアカウントとXの画像を同じにしていたことが、特定のきっかけになったと考えています。
とはいえ、匿名アカウントでもポートフォリオがしっかりしてくれば信頼度は上がり、仕事の依頼も来ます。
フォロワーが5000人を超えた頃からは、講演やテレビ出演の依頼がDMで届くようになりました。

LION先生、ありがとうございます。リアルな話に背筋が伸びました……。
でも、先生がおっしゃるように、匿名でも発信に一貫性があれば、信頼は積み上げられるんですよね。
始めたばかりの方にも、まずは守りながらでも続けてほしいなと思います。
匿名でも誰かに届いて、感謝や共感が返ってきたら、それはもう立派な“社会貢献”だと思います。

テレビ出演もされているのですね!
匿名発信の場合、実名や顔出しとリンクさせることもありますか?それともすべてDr.LIONとして対応されているのでしょうか?

SNSはとにかく試行回数と試行錯誤が大切だと思います。行動あるのみですね。
登壇依頼はアイコンでの出演も可能でしたし、テレビ出演も匿名のままで大丈夫な案件でした。

テレビも匿名で出演できるのですね。
今の時代、tuki.さんやAdoさんのように匿名で活躍している方も多いですし、やはり中身が一番大事だなと感じます。ありがとうございます。

・実名
信頼性が高く、PR・監修・仕事の依頼につながる可能性がある

・匿名
キャラ作りや自由な発信がしやすいが、垢バレのリスクに注意が必要

・初心者は…?
ハンドルネームから始め、価値ある情報を継続して発信することが大切


テーマ3:やらかし事例で学ぶ炎上リスク

さて、ここまでSNSのメリットについて話してきましたが、やはり「炎上リスク」も気になりますよね。実際にご自身や周囲で、医師が炎上した事例ってありますか?

あります。後輩医師のケースですが、精神科の専門医や指定医を持たずに初期研修を終えた段階で、保険診療と自由診療を組み合わせた精神科クリニックを開設したんです。実名や顔写真を出してSNSで発信したことで炎上し、Googleの口コミ欄にも精神科医が書き込むなど、かなり深刻な事態になりました。

他にも、エクソソームなどエビデンスの確立されていない美容治療や、「リベルサスは痩せるサプリ」といった表現、「麻酔科専門医が全身麻酔下で医療脱毛を行います」などの内容は、医療倫理に反していると見なされて、炎上しやすいです。

先生のご指摘、非常に同意します。医師のSNS炎上って、たいていはエビデンスに欠ける医療情報や、倫理を無視した商業的な発言が原因なんですよね。でも、普通に診療している範囲ならまず炎上はしません。むしろ投稿の誤りを指摘してもらえること自体が、学びのチャンスになると思います。僕も2~3回、議論になったことがありますが、炎上というより建設的なやりとりでした。

まさにそうですね。私は「医師の副業」について発信していることもあって、税金や節税の話をする機会が多いのですが、読者からの指摘や質問が新たな学びになることも多いです。

“医療倫理・エビデンス・表現の丁寧さ”が欠けていると炎上しやすいというのは、本当にその通りだと思います。僕も一度、「これ軽率だったかも」と冷や汗をかいた投稿があって、そこにコメントで指摘をもらえたのはありがたかったですね。SNSって一方通行ではなくて、自分の未熟さを育ててもらえる場でもあるなと感じます。

印象に残っているのが、美容外科医が海外の献体実習(カダバー研修)で撮影した写真を投稿して炎上した事例ですね。頭部の写真に軽い文言を添えたことで、“倫理観に欠ける”と国内外から批判が集まりました。SNSでは「内容」だけでなく、「トーンや文脈」もリスクになるという象徴的な事例です。

さらに、アメリカでは「Dancing Doctor」として知られる医師が、手術中に踊る様子を撮影してSNSに投稿し、大きな問題になりました。私たち外科医としては音楽を流すのは日常ですが、一般の方との感覚のズレに無自覚だと、炎上の火種になり得ますね。

ありましたね。あの献体の事例では、ある政治家が投稿した医師を擁護する発言をして、さらに炎上が広がりました。炎上した後の対応も重要です。

確かに、あれは対応が悪かったですね。今は職種問わず、身内の話がすぐに外部に出てしまいますから、「これを投稿したらどう思われるか」という視点が欠かせません。とはいえ、炎上はごく一部の話ですから、過度に恐れる必要はないと思います。

本当にそうですね。“常に誰かに見られている”という前提で投稿する癖を持つのが大切だなと。情報が想像以上に速く拡散される時代なので、そのリスクを踏まえつつも、SNSの楽しさや学びを上手に活かしていきたいです。

・エビデンス・倫理に欠ける投稿は炎上リスクが高い
未認可の医療、過激な広告表現、献体写真などが問題視される。

・SNSは学びの場にもなるが、“誰かに見られている”意識が必要
炎上の多くは一部だが、情報はすぐ拡散され
文脈やトーンでも誤解される。

・炎上後の対応や姿勢も重要
指摘を謙虚に受け止める姿勢が信頼を守り、
逆に対応を誤ると火に油を注ぐ。


テーマ4:対策と賢い使い方

それでは、「対策と賢い使い方」について、それぞれの実践があれば教えていただけますか?

私はまず、キャラクターのアイコンを毅然とした印象のあるものに変えて、権威性を意識しています。投稿の内容については、曖昧な表現は避け、AIを使ってファクトチェックしてから発信するようにしています。

ファクトチェック、私もChatGPTのo3をよく使っています。先生はモデル選びなどどうされていますか?

切り替えが面倒なので、私は基本的にすべてGPT-4oにしています。それと、投稿の語尾も「〜だと思います」から「〜です」「〜となっています」など、断定形に変えました。言い切ると読者の信頼を得やすく、フォロワーも増えました。

たしかに断定形のほうが信頼されやすいですよね。アイコンの工夫も含めて、SNSならではの設計ですね。

ドクターK@眼科医先生は、炎上対策やSNS運用で意識していることはありますか?

私が気をつけているのは主に3点です。
・専門外のことは投稿しない、するとしても引用まで
・批判はなるべく避け、誤りは指摘程度にとどめる
・間違ったことを言った場合は訂正ポストを出す
この3つを守れば、大きなトラブルにはつながらないと思っています。

ありがとうございます。その基本の原則を守るだけでもかなり違いますよね。私も過去に意図が誤解されて冷や汗をかいたことがあり、それ以来引用や表現にはより注意するようにしています。

あと気をつけているのは、患者さんの情報についてです。たとえば印象的な症例があったとしても、
・年齢や性別
・病名や治療内容
・時期や地域
といった断片情報の組み合わせで、匿名でも特定につながってしまう可能性があるので、その点は非常に慎重にしています。投稿するなら時期をずらして、より一般化した内容にするようにしています。

また、SNSではミームやネタ系の投稿もよく見かけますよね。うまくいけばバズる一方で、医師がやると炎上リスクもあるかと思います。皆さんは「有益ポスト」以外にも、ジョークやネタを投稿されることはありますか?

以前はネタポストもしていましたが、今はやめました。現在は「医師の副業」や「自己開示」にテーマを絞っています。
たとえば「婚約破棄したことがある」といった自分のエピソードを出すと、共感やコメントが集まりやすいです。自由診療のカウンセリングでも、自己開示は信頼関係をつくる手法のひとつです。

たしかに、“肩書きの医師”ではなく、“等身大の個人”として見てもらえると、親しみが湧きますよね。SNSでも診療でも、有効なアプローチだと思います。

私も似たような工夫をしています。たとえば家族の写真をChatGPTでイラスト化して、定期的に投稿しています。「自分は父親なんだ」と思い出してもらえるようにしています。プロフィールのヘッダーも子どもです。

そうでしたよね。そういう家庭の側面が見えることで、読者との距離も縮まりますし、医師の発信が冷たくなりすぎない効果もありますね。

ドクターK@眼科医先生は、ネタ投稿についてはどうお考えですか?

拡散力がある“起爆剤”にはなりますが、狙いすぎると投稿が尖りすぎることもあるので注意が必要です。その点、家族系の話題は自然に変化があるので、安定したコンテンツになると思っています。

なるほど…。味気ない情報ばかりでは読んでもらえませんし、バランスよく人柄を出していくのが大事ですね。

  • 炎上回避には「専門性」「訂正」「抑制」の3原則
    専門外の話題には深入りせず、誤りがあれば訂正、批判は避けて
    指摘にとどめる。これらの行動が大きなリスク回避につながる。
     
  • “毅然とした態度”と“等身大の人間性”の両立が鍵
    断定表現や印象的なアイコンによる権威性と、
    自己開示や家庭の話題による親近感。
    この両輪で信頼と共感を得ることができる。
     
  • ネタやジョークは“狙いすぎず自然体”が安全で効果的
    拡散力はあるものの炎上リスクもあるネタ投稿は慎重に。
    家族ネタや日常の気づきなど、自然な話題は継続性もあり好印象を生む。

  • 1. SNSは“医師のキャリアを広げる武器”になる
    SNSの活用によって、医師は専門分野を超えた人脈形成、
    自己ブランディング、出版・講演などのチャンスを得られる。
    匿名・実名に関わらず、「継続的に価値ある情報を発信する」ことが
    成功の鍵であり、現代の医師にとってSNSは重要なキャリア資源である。
     
  •  2. 「信頼性」と「自由度」――実名・匿名の使い分けが重要
    実名は信頼性・集客・実業との連携に強みがある一方、
    匿名は自由度と戦略的発信が可能。
    初心者はまず匿名やペンネームで始め、
    炎上リスクを回避しながら発信力を育てるのがおすすめ。
    重要なのは「一貫性」と「誠実さ」で信頼を積み上げること。
     
  •  3. 炎上対策は“専門性・抑制・訂正”の三本柱+人間味の演出
    エビデンスに基づいた発信、批判ではなく指摘、間違いがあれば誠実に訂正。これらを守れば炎上はほぼ防げる。
    さらに、毅然とした語り口やアイコン、
    家庭や自己開示による親近感の演出が
    「信頼」と「共感」の両輪となり、安全で効果的なSNS活用を可能にする。

参考文献・関連資料一覧

1.美容外科医による献体写真投稿炎上事例
J-CASTニュース. 「頭部がたくさん」
献体画像をSNS投稿の美容外科医に批判殺到
https://www.j-cast.com/2024/12/27499976.html

2.医療機関ネットパトロールの概要
厚生労働省「医療機関ネットパトロール」公式サイト
(監視・通報の仕組みなど)
https://iryoukoukoku-patrol.mhlw.go.jp/


この記事のタグ

その他関連するタグ

その他関連する記事

テスト

テスト

 

医師がおすすめする特別な花粉症対策ってありますか?

医師がおすすめする特別な花粉症対策ってありますか?

 花粉症は国民病ともいわれています。日本人のスギ花粉症の有病率は約39%にのぼり1) 花粉症による生産性の低下は1日当たり2,215億円の経済損失を招くとの試算もあります2) 今回はアザラシライティン

記事一覧を見る

あなたの気になることを
質問してみませんか?

医師に調査を
リクエスト
監修等を依頼したい
医療メディアはこちら
執筆・監修を依頼する