「もう治ったからやめる」は危険? 抗菌薬を最後まで飲む本当の理由
イントロダクション
「熱が下がったので処方された薬の服用を中断する」 と、つい考えてしまう場面はどなたにもあるかと思います。ですが、こうした自己判断による行動は、実は注意が必要です。
たとえ症状が治まっていても、体内にはまだ菌が潜んでいる可能性があるからです。もし途中で服用をやめてしまうと、残った菌が再び増えて病気が長引いたり、将来薬が効きにくくなる「薬剤耐性」というリスクを招いたりすることにもつながりかねません,。
今回は、感染症内科、呼吸器外科、呼吸器内科の最前線で働く3人の医師が集まり、抗菌薬の正しいルールについて語り合いました。 「なぜ最後まで飲み切ることが大切なのか?」「医師は何を考えて薬を選んでいるのか?」 知っているようで知らない抗菌薬の真実を、現場のエピソードを交えてお届けします。
【参加医師の自己紹介】
感染症内科専門医・医師15年目。市中病院勤務。ICT(感染対策チーム)およびAST(抗菌薬適正使用支援チーム)にも従事。
呼吸器外科医・医師11年目。一般内科診療にも従事し、抗菌薬の適正使用に高い関心を持つ。
呼吸器内科医・医師22年目。地域中核病院勤務。感染対策委員長としてICT/AST活動を行い、感染症診療に幅広く対応。
テーマ①そもそも抗菌薬とは?
ーーまずは基本的なところから伺いたいのですが、抗菌薬とはどのようなお薬なのでしょうか?
私は抗菌薬を「細菌をやっつける薬であり、風邪のようなウイルスには効かない」とシンプルに説明しています。
私も「抗菌薬は“ばい菌=細菌”をやっつけるお薬」と伝えています。インフルエンザや風邪など、ウイルス性疾患には効かないと強調します。また手術の場面では予防投与として使用し、終了後は速やかに中止します。長期使用は副作用や耐性菌のリスクを高めるため、“短く・適切に”が原則と説明しています。
私も「細菌には効くが、ウイルスには効かない」と説明しています。たとえば「肺炎球菌」や「マイコプラズマ」など、聞き覚えのある病原体を出しながら、細菌とウイルスの違いを伝えるようにしています。また、「ウイルスには抗ウイルス薬があるが、それは抗菌薬ではない」とも付け加えます。
患者さんの反応はいかがでしょう?受け入れが難しいケースはありませんか?
「風邪をひいたら抗生剤を飲めば早く治る」と思い込んでいる方は多いです。予防的投与についても「長く続けた方が効く」と誤解されがちですが、「下痢や耐性菌の増加などマイナスの方が大きい」と説明しています。
細菌とウイルスの違いを話すとき、「どう違うのか?」と聞かれることが稀にあります。その際は「細菌は細胞壁を持つがウイルスは持たない。この細胞壁を作れなくするのが抗菌薬の働きです」と簡潔に説明します。
機序まで聞かれることは私の経験では少ないですが、どのような作用機序を把握されていて、実際に説明されることはありますか?
教科書的ですが、以下の5つがあります。
• 細胞壁合成阻害
• 細胞膜機能障害
• タンパク質合成阻害
• 葉酸合成阻害
• 核酸合成阻害
説明するときは「細胞壁を作らせない」「DNA合成を妨げる」の2つを中心にしています。
呼吸器外科の立場からは、膿胸での使用が印象的です。患者さんには「膿が溜まっていると、抗菌薬が届かない。だからドレナージ(排膿)が必要」と説明します。
ーーありがとうございます。
ちなみに抗菌薬・抗生物質・抗生剤という言葉の使い分けはどうされていますか?
“抗菌薬”は合成品や天然物を問わず細菌に効く薬の総称として使用しています。“抗生物質”は微生物の代謝産物に限定されるので、区別しています。“抗生剤”は混同しやすい俗称なので、使わないようにしています。
同感です。自分も同じ使い方です。患者さんが「抗生物質」「抗生剤」と言っても訂正はせず、自然に「抗菌薬」に置き換えて会話を進めるようにしています。
私も同様です。ところで、実際には患者さんからは「抗生物質」と呼ばれることが圧倒的に多いですよね?
高齢の方には特に多いです。昭和の時代には、教科書やテレビなどでも「抗生物質」という言葉が多用されていた影響かもしれません。
まさにその通りです。医療ドラマや学校教育でも「抗菌薬」より「抗生物質」が使われていた印象があります。歴史的に、フレミングのペニシリン発見などで「抗生物質」という言葉が定着した面もあると思います。
なるほど。小学校教育に薬剤耐性や抗菌薬の授業があってもよさそうですね。北欧のように進んだ国では既に始まっているとも聞きます。
ーーここまでのお話で、抗菌薬の基本的な役割や考え方が見えてきました。一度まとめてみます。
「そもそも抗菌薬とは?」のまとめ
- 抗菌薬は細菌に効く薬であり、風邪やインフルエンザ、新型コロナウイルスなどのウイルス性疾患には効果がないことを、具体例を挙げて明確に伝えることが重要である。あわせて、長期使用による副作用や耐性菌のリスクについても説明が必要となる。
- 抗菌薬の作用機序は多岐にわたるが、患者さんへの説明では「細胞壁合成阻害」や「DNA合成阻害」など代表的なものに絞ることで理解を得やすい。
- 用語については、患者さんが「抗生物質」「抗生剤」と表現しても否定せず、会話の中で自然に「抗菌薬」という正しい用語に置き換えて対応する姿勢が望ましい。
- 医師間では定義の整理がなされている一方、一般では「抗生物質」が広く浸透しており、その背景には教育やメディアの影響があると分析された。
テーマ②抗菌薬ってどう決める?
ーーでは次に、医師は実際に抗菌薬をどのように選んでいるのか、その考え方を教えてください。
先生方は、外来での抗菌薬選択をどうされていますか?
まず「本当に抗菌薬が必要か」を見極めます。咳が長引くだけならウイルス性の可能性が高く抗菌薬は不要。一方、画像で肺炎があり、発熱や呼吸困難があれば細菌感染を疑って抗菌薬を検討します。起炎菌としては肺炎球菌やインフルエンザ桿菌などを想定し、地域の耐性傾向や腎機能、アレルギー歴も踏まえて選びます。治療期間は軽症肺炎なら5~7日を目安にしています。
肺炎診療時の検査についても教えてください。
基本はレントゲンとSpO₂。必要に応じてCTや尿中抗原、インフル・コロナの迅速検査を追加します。
培養検査についてはいかがですか?
抗菌薬投与前に喀痰培養を提出するようにしています。血液培養や抗酸菌検査も、必要があれば追加します。ただ、喀痰が出にくかったり、すでに抗菌薬を飲み始めているケースもあり、判断が難しいこともあります。
抗菌薬の選択は、肺炎の種類や患者背景(糖尿病、ステロイド使用など)を踏まえて行います。外来であればオーグメンチン+サワシリンや、レスピレトリーキノロン(レボフロキサシン、ラスビックなど)を使うことが多いですね。
「この菌による肺炎だからこの薬を使う」という視点が大切ですね。レスピレトリーキノロンの使い分けはされていますか?
あまり明確には使い分けていません。呼吸器感染ではジェニナックやラスビックを使うことが多いです。ラスビックは適応症が限られているので注意しています。
必要に応じて使い分けますが、施設によっては薬の種類が限られているので選択肢が少ないです。中等症以上では吸引してでも喀痰培養を提出したいと思っています。
大学では培養提出が標準ですが、クリニックでは培養を出さないことも多い印象ですね。
はい。大学では内科とカンファレンスもあるので、抗菌薬前の培養は当たり前ですが、外勤先では「培養の指示伝票なんて書いたことない」と言われることもあります。使える抗菌薬も、レボフロキサシンやメイアクトなど、ごく限られています。
点数がつかないことで、適切な医療が実施されにくくなるのは残念ですね。仕組みの見直しが必要だと思います。
町立病院やクリニックとの感染対策のカンファレンスでも、培養が出されず、治療に活かせていない印象があります。抗菌薬の選択肢も限られ、エスカレーションやデエスカレーションが難しいのが現状です。
話が少し変わりますが、AWaRe分類はどの程度意識されていますか?また、ガイドラインはどのくらい参考にされていますか?
AWaReは加算目的もあり、少し意識しています。国内ガイドラインは質に課題があると感じるため、私はIDSAのガイドラインをよく参照しています。
AWaReという言葉はあまり使いませんが、狭域抗菌薬をなるべく使うように心がけています。ガイドラインは、日本の成人肺炎診療ガイドラインや膿胸診療ガイドラインを主に参照しています。
やはり、質の高いガイドラインが整備されていくことが重要ですね。
ーーさまざまな現場の工夫や判断があることが理解できました。ここも整理してみましょう。
「抗菌薬ってどう決める?」のまとめ
- 抗菌薬選択の出発点は、「本当に抗菌薬が必要か」を見極め、症状や画像、検査所見から起炎菌を推定することである。地域の耐性傾向や患者背景を踏まえて経験的治療を行う。
- 抗菌薬投与前の培養検査は重要だが、大学病院とクリニックでは実施状況に差がある。保険点数や人員、検体採取の難しさなど、現場ごとの制約が診療に影響している
- ガイドラインやAWaRe分類は一定の指針となるものの、浸透度や実用性には課題も残る。最終的には施設環境や患者背景を踏まえた、柔軟な現場判断が求められる。
テーマ③風邪をひいたので抗菌薬?
ーー「風邪をひいたら抗菌薬」というイメージを持つ方も多いですが、実際の現場ではどう感じていらっしゃいますか?
そうですね、
・どんな患者さんから希望されるか
・どう説明しているか
・希望が強い場合はどう対応するか
このあたりをお聞かせください。
案外すんなり納得される方が多いです。「先生がそう言うなら」と。ただ裏では「あの先生は薬を出さない」と口コミがつくこともあるので、本当に理解されているかは分かりません。
信頼関係があるかどうかですね。一見さんが多いと、抗菌薬をもらうのが目的の方もいて、説明には気を遣います。
クリニック経営だと、抗菌薬を希望してもらえなかったと低評価されるのが怖いんです。医学的に正しくても、「ニーズに応えてくれない」と捉えられがちですね。
「抗菌薬ください」と言われることは意外と少ないですが、以前もらったことがある方は希望されることがあります。そのときの症状との違いや、今回不要な理由を簡潔に説明しています。否定はせず、希望が強い場合は、飲むタイミングの目安を伝えるようにしています。
ーー抗菌薬を希望される方に年齢や性別の傾向はありますか?説明されしたときの反応はいかがでしょう?
性別は関係ない気がします。高齢者ではご家族が希望されることもあります。若い方は説明を素直に受け入れてくれますね。「悪化すれば再診を」と伝えると、納得してくれる方が多いです。
資料など使われますか?うちのクリニックでは風邪の患者さんに配布しています。
準備したいとは思っているのですが、まだできていません。COPDや肺がんの資料は好評で、資料の大切さは感じています。
私の施設でもまだ整備できていません。ICT/ASTとしては用意すべきだと思っています。
ここでデータをご紹介します。2012〜2017年の保険診療データでは、10〜39歳の層で抗菌薬の処方が多く、無床診療所や耳鼻科・内科で処方されやすいという結果でした(参考1)。
別の報告では、20〜30代女性の抗菌薬使用量が男性より多いとも言われています(参考2)。お二人の実感としてはいかがでしょうか?
都心のクリニックでは「明日休めないので早く治したい」と希望されることがありました。女性は尿路感染やニキビなど、抗菌薬を使う機会が多いことも影響していそうです。
確かに、ニキビは頻度としては少ないですが、上気道炎に対しては女性に多く処方されているようです。海外でも同様の傾向が見られます。
女性のほうが使用量が多い印象はなかったですが、尿路感染症や非結核性抗酸菌症、気管支拡張症などが女性に多い疾患であることが影響しているのかもしれません。
なるほど、疾患の性差も影響していそうですね。参考になります。
ーー抗菌薬を求める患者さんには様々な背景があることがみえてきました。
「風邪をひいたので抗菌薬?」のまとめ
- 抗菌薬希望の背景には「過去の経験」や「早く治したい」という心理がある。とくに若年層や女性でその傾向がみられ、尿路感染症や慢性気道疾患など、抗菌薬使用頻度の高い疾患に性差があることも影響している可能性が示唆された。
- 多くの患者は医師の説明に納得するものの、その前提には信頼関係がある。一方で、「薬を出してくれない医師」として口コミ評価が下がるケースもあり、医学的に正しい対応と患者満足度との間でジレンマが生じる場面がある。
- 限られた診療時間の中では、資料を用いた説明が有効だが、実際の整備状況には施設差がある。内科や小児科での活用例はあるものの、十分に準備できていない現場も多く、今後の課題になっている。
テーマ④抗菌薬を途中でやめるとどうなるの?
ーー最後に、抗菌薬を途中でやめてしまうことについて、教えていただけますか
抗菌薬を飲んでいると、「あ、熱も下がったし、体も軽くなってきたし、もう飲まなくてもいいかな…」と思ってしまうことはありませんか?
私も患者さんから、「もう大丈夫そうだからやめちゃいました」と言われることがあります。
身体のつらさが和らぐと、つい「治った」と思ってしまいますよね。仕事や家事、育児に追われて、これ以上薬を続けるのが面倒と感じるのも理解できます。
でも、症状が良くなっても身体の奥には、まだやっつけきれていない菌が潜んでいることがあります。
その菌にとって「飲みかけでやめる」というのは、「ラッキー、助かった!」というタイミングなんです。
あなたが最後の1錠まできちんと飲み切ることで、その菌は逃げ場を失い、再発を防げます。
それが、未来の自分、そして周りの人を守ることにもつながります。
私たち医療者は、薬を出して終わりではなく、“薬を通してしっかり良くなってほしい”と願っています。
一緒に、治し切っていきましょう。
私たち医師は、患者さんの症状の重さ、病気の経過、合併症の有無などを考慮して、抗菌薬の種類や期間を決めています。それにはすべて意味があります。
初診のときだけでなく、必要に応じて再診してもらえるようお話しもします。
まずは処方医を信じて、指示された薬を、指示された期間きちんと飲みきってください。
この治療で治らなかった場合にどう対応するか、症状が改善していれば次回は中止を検討するか、などもすべて含めて医療者側は診療を組み立てています。
「治らなかったから別の病院へ」ではなく、「治らないからこそ、同じ医師にもう一度相談」してほしいと思います。
抗菌薬を途中でやめると耐性菌が生まれるリスクがあります。そして耐性菌の問題は、その人だけではなく、まわりに広がってしまうことで社会的な問題へと発展します。
抗菌薬は、医療者だけでなく患者さん一人ひとりの正しい使用も非常に大切です。
「自分のことだけではない」という視点も持っていただければと思います。
薬剤耐性(AMR)は、G7サミットでも議題に上がるほど、世界的に重要な課題の一つです。
医療従事者だけでなく、国民一人ひとりの心がけが、未来を守る行動につながると考えています。
国立研究開発法人 国立国際医療研究センターのAMR臨床リファレンスセンターでは、さまざまな「啓発ツール」も公開されています(参考3)。
患者さんへの説明や理解促進にも役立つ内容なので、ぜひ活用していきましょう。
ーー今日のお話を通して、抗菌薬との向き合い方が少し整理できたのではないでしょうか。まとめに入ります。
「抗菌薬を途中でやめるとどうなるの?」のまとめ
- 抗菌薬は症状が改善しても最後まで飲み切ることが重要である。途中で内服をやめてしまうと、治りきらなかった菌に逃げ道を与えてしまい、再発や悪化のリスクがある。
- 抗菌薬の種類や投与期間は、症状の重さや経過、合併症などを踏まえて医師が設計している。自己判断で中断せず、治らない場合や不安がある場合には、まず処方した医師に相談することが望ましい。
- 抗菌薬を途中でやめることは耐性菌を生み出すリスクを高め、その影響は個人にとどまらず社会全体に及ぶ。抗菌薬の適正使用には、医療者と患者の双方の理解と協力が不可欠である。
ーーここまで4つのテーマについて伺ってきました。最後に、全体を振り返ってみましょう。
座談会全体のまとめ
抗菌薬は「適切に選び、正しく使い、最後まで飲み切る」ことが基本である。細菌にのみ有効で、風邪やインフルエンザなどのウイルス性疾患には効かないため、患者さんにはシンプルで誤解のない説明が重要となる。医師は必要性の判断や起炎菌の推定、培養検査などを踏まえて抗菌薬を選択し、症状が改善しても内服を中断せず飲み切ることが再発や耐性予防につながる。
抗菌薬を希望する背景には、過去の処方経験や「早く治したい」という心理があり、若年層や女性で多い傾向がみられる。丁寧な説明で多くの患者は納得するものの、「薬を出さない医師」と誤解されることもあり、信頼関係の構築が適正使用のカギとなる。
抗菌薬の乱用や途中中断は耐性菌を生み出し、その影響は社会全体に及ぶ。抗菌薬の適正使用は医師だけでなく患者さんの理解と行動も不可欠であり、AMRを「自分事」として捉える意識が、将来の感染症医療を守ることにつながる。
参考文献
- 『Factors associated with inappropriate antibiotic prescribing for non-bacterial acute respiratory tract infection in Japan: A retrospective claims database study』(PLOS One)https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31618258/
- 『NDBデータによる抗菌薬使用量分析(2013–2020)』(AMR Clinical Reference Center)https://amrcrc.jihs.go.jp/surveillance/010/ref/NDB_2013-2020_age2.pdf
- 『啓発ツール』(AMR臨床リファレンスセンター)
https://amr.ncgm.go.jp/materials/
監修
シトラス先生
感染症内科専門医・医師15年目。市中病院勤務。ICT(感染対策チーム)およびAST(抗菌薬適正使用支援チーム)にも従事。
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