イントロダクション
食べてもつらい、食べなくてもつらい……。
多くの女性が妊娠悪阻に苦しんでいます。妊娠悪阻にはどのように対処すればよいのでしょうか。医学的に治療法はないのでしょうか。
今回は、妊娠・出産経験を持つ女性医師3人が、妊娠悪阻の体験談や対処法を語り合いました。今まさに妊娠悪阻に苦しんでいる方、妊娠悪阻の対処法を探している方のお役に立てる骨太の座談会です。
【参加医師の自己紹介】
医師13年目。34歳で第一子(女児)、37歳で第二子(女児)を出産。いずれも自然妊娠。
医師17年目。30歳で第一子、35歳で第二子を出産。いずれも自然妊娠。
医師17年目。31歳で第一子、33歳で第二子、37歳で第三子を出産。上2人が女児、下が男児。いずれも自然妊娠。
妊娠悪阻の対処法と医師のつわり体験談【食事編】
——複数回の妊娠・出産を経験されている皆様のリアルな悪阻体験談を教えてください!
私の妊娠悪阻は軽度で、主に空腹時の吐き気と食後の胃もたれでした。嘔吐はありませんでした。
私も空腹でも満腹でも吐き気が出るタイプで、1日1回程度嘔吐していました。
私も最初の頃は軽い吐き気と少量の嘔吐がありましたが、後半は「食べづわり」になり、空腹になると気分が悪くなっていました。
また、2人目以降では「よだれづわり」も経験しました。唾液が異常に分泌される状態で、夜間はペットボトルを枕元に置いて対処していました。あまり知られていない症状だったので、情報が少なく、不安になることもありました。
——辛いつわりの時期は、どのように食事を工夫していましたか?
仕事中にも対応できるよう、小さなおにぎりや和菓子を持ち歩いて分食していました。特定の食べ物を無性に欲することも、逆に受け付けない食べ物もありませんでしたが、りんごやりんごジュースは、他の人でも比較的受け入れやすいと聞いたことがあります。
第一子のときは飴やトマトをよく口にしていました。冷麺も体調が良いときは食べられました。第二子のときは、近所のパン屋のアップルパイだけが食べられたので、夫がよく買ってきてくれました。栄養のバランスまでは考えられず、目の前の吐き気を抑えることが最優先でした。調理の気力もなかったので、調理の手間のある食材は避けていました。
アップルパイを食べるようになったのは、夫が買ってきた菓子パンの中に偶然含まれていたからです。試しに食べてみたら大丈夫で、それからはそのパン屋のものをよく食べていました。生のりんごやジュースは試していませんでした。
ちなみに、欧米では生姜が軽度のつわりに効果があるというエビデンスもあるようですね(参考1)。
食べづわりの時期は、こまめにミニトマトを食べていました。1回の食事で1パックほど食べていたと思います。脂っこいものは全く受け付けませんでした。
栄養面については、乳製品を取るようにしていましたが、つわりが軽めだったこともあり、栄養補給に特別気を遣うことはありませんでした。ただ、食べ過ぎには注意していました。周囲には点滴を受けながら働いていた看護師さんもいたので、重症例の方の大変さを実感しています。
——妊娠悪阻を経験した後、食の好みや体質の変化はありましたか?
私は特に変化はなかったです。つわり中は普段と違うものが食べたくなる不思議な感覚がありましたが、つわりが終われば自然と元に戻りました。
私も大きな変化はありませんでした。酸っぱいものが好きだったと気づいた程度で、あとは元に戻ったと思います。
「妊娠悪阻の対処法と医師のつわり体験談【食事編】」まとめ
- 食べられる物は人それぞれ、妊娠ごとにも異なる
- 食欲低下時に食べられる食品は人によって大きく異なり、同じ人でも妊娠ごとに変化。工夫しながら“そのとき食べられるもの”を探す柔軟さが必要。
- 症状に応じた工夫が重要
- 分食や匂いの少ない食べ物の選択、調理不要の食品の活用など、吐き気や匂いづわり、よだれづわりといった多様な症状に合わせて工夫する。
- つわりによる嗜好変化は一時的で、つわりが治まった後は元に戻る傾向
- つわり中に一時的な嗜好の変化(酸味嗜好など)は見られたが、つわりの時期が終わると元に戻ることが多く、体質の大きな変化を感じた例は少ない。
職場の理解がキーポイントー妊娠悪阻と仕事の両立
——つわりと仕事の両立も苦労されたのではないでしょうか。職場への報告のタイミングと職場側の対応を教えてください
私はどちらの妊娠も、比較的初期に直属の上司に報告しました。「おめでとう」と言っていただけて、本当にありがたかったですね。
第一子のときは当直が予定されていましたが、上司のご厚意で交代してもらえました。やはり、伝える相手やタイミングでその後が大きく変わってくると思います。
私も早めに伝えるようにしていました。一人目のとき、直属の上司はとても理解がありましたが、病院全体としては対応が厳しくて……。
「妊娠を皆の前で発表し、当直の交代を多数決で決めましょう」とまで言われました。最終的には上司が間に入ってくれました。また、当初は産休はなしで退職の方針でしたがこれも上司が掛け合ってくれて産休までは取得できました。育休は取ることができず退職しました。制度があっても、現場が使わせてくれないと意味がないと痛感しました。
それはかなり大変な状況ですね……。私は当時大学の医局にいて、最若手でした。完全寝当直が週に1〜2回ありましたが、安定期までの1ヶ月は上司が全て代わってくださって。
その後は当直にも戻り、妊娠8ヶ月頃までは外勤も続けました。職場には安定期前に伝えましたが、教授や准教授には入局面接の段階で妊娠出産の可能性について話していたので、理解も得やすかったです。
職場の理解って、本当に大きいですよね。私の業務は外来中心で、立ち仕事は多くなかったのですが、悪阻の時期は飴やビニール袋を常に持ち歩いて対応していました。
でも、2回とも20週後半で切迫早産になり、自宅安静となって休職しました。
それは大変でしたね…。休職中の経済的な不安などはありましたか?
幸い有給を活用できましたし、入院も避けられたので、経済的な負担は少なく済みました。
キャリア的にも、1ヶ月早く産休に入った程度なので大きな影響はなかったと思います。ただ、急な不在で外来の代診など、上司にはご迷惑をおかけしたと思っています。
私は悪阻で勤務に支障が出たことはあまりなく、最終的には当直や外勤も続けられました。
でもやっぱり、職場によって制度の使いやすさが違いますよね。たとえば「母性健康管理指導事項連絡カード」(参考2)なんて制度もありますけど、実際に使うのは難しいと感じる人も多いのではないでしょうか。
そのとおりですね。2回目の妊娠のときは第一子の時とは別の職場だったのですが、そこは未就学児がいる医師は当直免除というルールがあり、かなり働きやすかったです。
妊娠がわかってすぐに上長と同期に伝えて、安定期の後には他スタッフにも共有しましたが、特にネガティブな反応もなく、業務量もほとんど変えずに勤務を続けられました。
それは理想的な環境ですね!
はい、おかげで無理せず働けました。外勤は6ヶ月頃で辞めましたが、基本給が大学より高かったので、経済面でも比較的安心でした。
キャリアには妊娠出産による影響はありましたが、それは当然のことだと受け止めています。悪阻そのものでの影響は少なかったです。
「職場の理解がキーポイントー妊娠悪阻と仕事の両立」まとめ
- 妊娠報告のタイミングと職場の理解が鍵
- 妊娠の早期報告は業務調整や急な体調変化への備えにつながるが、その効果は直属上司や職場文化の理解度に大きく左右される。
- 妊娠悪阻・切迫早産などによる影響には個人差が大きい
- 業務への影響の程度は、職種や業務内容(外来・当直・外勤)に加え、悪阻や体調不良の程度によっても大きく異なる。職場文化の影響も大きい。
- 経済面・キャリア面の影響は勤務環境次第で軽減可能
- 休職や外勤減による収入の減少、キャリア中断の可能性はあるものの、有給の活用や制度整備、基本給が安定した職場を選ぶことで負担を抑えることもできる。妊娠出産を見据えた職場選びや働き方の工夫が、長期的なキャリア維持に寄与する。
妊娠悪阻と家庭生活との両立
——つわりと家庭生活はどのように両立していましたか?特に第二子以降は子育てとつわりが同時並行で大変な状況かと思います
1人目妊娠中は、「今何がつらいか」「何をしてほしいか」を家族に伝えるようにしていました。夫が家事や買い物を引き受けてくれて、助かりました。
2人目のときは上の子が4歳で、「お母さんは具合が悪い」と伝えると理解してくれました。自宅では塗り絵やハサミ遊びで子どもが集中してくれる時間を作り、その間に私は横になって休んでいました。テレビも見せていましたし、買い物や食事はネットと生協で対応していました。
つわりは終わりが見えないのが辛く、「つわり いつ終わる」と検索ばかりしていました。そんな中で「具合どう?」と声をかけてもらえるだけで心が軽くなったのを覚えています。
夫はとても協力的で、私の好みに合わせた食事を買ってきてくれました。ただ、してくれることが的外れだったりすると、もちろん感謝はしていますが「そこじゃないんだよな…」と感じることもありました。妊娠中は精神的にも過敏になっているので、細かなズレでも気になりがちです。
「家族でも他人」という意識で、してほしいことは具体的に伝えることが大切だと思います。
上の子の対応も大変でした。2人目のときは上の子が2歳でイヤイヤ期。テレビにも頼っていました。3人目のときは上の子たちが成長していたので、逆に心配してくれたり2人で遊んでくれて助かりました。
「赤ちゃんも大切だけど、あなたたちも同じくらい大事」と伝えるようにしていました。
私のつわりは軽かったですが、夫はわがままを言っても怒らず、気を遣ってくれていたと思います。家事を普段からかなりしてくれていたので、余計に不満はありませんでした。
嬉しかったのは、「大丈夫?」と気遣ってくれる言葉。妊娠中は不安も多く、自分に余裕がない時期なので、そういう声かけが本当にありがたかったです。
2人目のときは上の子に寂しい思いをさせないよう気をつけました。公園に行っても「お砂場は無理だから(トキソプラズマ、回虫の懸念から)、パパとね」と言うしかなく、夫と上の子だけで出かけてもらうことも多かったです。実家の両親に月1回ほどお泊まりさせてもらって気分転換もさせていました。つわりの時、夫に「少しだけ一緒にベッドにいて」と頼んで、スーツのままそばにいてもらったこともありました。今思えば、あれは心細かったんだと思います。
それ、すごく共感します。妊娠悪阻の時期って、症状の重さにかかわらず、精神的にしんどいんですよね。
妊婦のうつ症状って、メタ分析でも優位に高いって結果がありますし、軽い悪阻でもパートナーとの関係に悪影響があるという報告もあるみたいです(参考3.4)
そうですよね。夫には、実務的な家事を先回りしてやってもらえるとすごく助かるし、精神的な部分では「変わっていくのが自然なんだ」と受け入れてもらえるとありがたい。
もちろん、男性には症状がないから共感するのが難しいのは分かるけど、そういうスタンスがあるだけで全然違いますよね。
「妊娠悪阻と家庭生活との両立」まとめ
- 妊娠悪阻中は「終わりの見えない辛さ」が大きく、夫からの声かけ・共感・実務サポートが精神的・身体的に大きな支えになる。
- サポートには「気持ちのズレ」が生じやすく、具体的に「してほしいこと」を言語化し共有することが重要。
- 上の子のケアにおいては、罪悪感を持ちすぎず、家族やメディアをうまく活用して母親の休養を優先する柔軟さも必要。
妊娠悪阻への医学的なアプローチ
——妊娠悪阻に対して、医学的にはどのような治療法があるのでしょうか?
妊娠悪阻に対する治療は、西洋医学だけでなく漢方、瞑想、スピリチュアルなどさまざまな視点があり得ると思います。私自身も、つわりに対するアプローチをもう一度勉強してみようと、今回の座談会をきっかけに調べてみました。
私は西洋医学寄りの視点で、海外の治療法を調べました。アメリカなどでは『ボンジェスタ(Bonjesta)』という薬が妊娠悪阻に使われているんですね。これはビタミンB6と抗ヒスタミン薬のドキシラミンの合剤で、つわりによる嘔気・嘔吐を軽減するものです。ACOG(アメリカ産科婦人科学会)の公式FAQでも、“ビタミンB6は最初に試すことができる、安全な治療薬である”と明記されています(参考5)。
私もACOGの資料を読みました。やはり、ビタミンB6+ドキシラミンは第一選択なんですね。日本ではまだ未承認ですが、自由診療やオンライン診療で処方されているケースもあるようです。ちなみに、厚労省にも承認申請が出ていると聞きました(参考6)。
今後の承認次第で、日本でも妊娠悪阻治療が変わってくる可能性がありますよね。
——漢方薬はいかがでしょうか?
漢方薬も選択肢のひとつとして重要だと思います。たとえば、小半夏加茯苓湯や半夏厚朴湯は、精神面にも作用があるとされていて、心療内科で使われることもあります。妊娠悪阻は精神的ストレスと相関があることもあるので、有効な場合もあると思います。ただ、日本臨床漢方医会では“器官形成期にあたる妊娠初期の服用は慎重に”と注意喚起されています(参考7)。
漢方医学では、つわりは“胃部の痰飲”と捉えます。標準的には、まず小半夏加茯苓湯。冷まして服用する“冷服”という使い方をするそうです。初期には半夏厚朴湯や六君子湯、五苓散が、長引く場合には人参湯、半夏瀉心湯、茯苓飲合半夏厚朴湯などが使われるとのこと。人工中絶が視野に入るような重症例ではこれらの経直腸投与という方法もあるそうです(参考8)。
“冷服”ってあまり聞いたことがなかったのですが、冷たいまま飲むという意味ですか?
煮出した漢方薬の煎じ液を冷ましてから飲むという内服方法のようです。虚証体質の人に対して通常は温めることが指導されますが、症状や状況によっては冷たいままで飲むことが勧められることもあるそうです。妊婦さんは通常“虚証”とされるので、”冷服”とわざわざ指示するのでしょうね。
ツムラの勉強会で聞いたのですが、漢方の中でもメカニズムが解明されているものは少ないです。六君子湯や半夏厚朴湯は比較的解明が進んでいるようです。ただ、漢方薬の多くには甘草が含まれているため、複数の漢方を併用する場合や長期使用には注意が必要です。腎臓内科的には注意が必要だと思います。ただ、小半夏加茯苓湯や半夏厚朴湯には甘草は含まれていないようでした。
私自身、妊娠中につわりが寒い時期だったこともあり、身体を温めると少し楽になった記憶があります。冷やして服用するというのは少し意外でしたが、勉強になりました。
治療の選択肢が限られている中で、漢方はとても心強いツールになると感じました。実際、医療ビッグデータの分析でも、妊娠悪阻に対する漢方薬の使用は医療費の削減と治療効果の両面で有効とされているとのことです(参考8)。
つわりの治療は選択肢が少ないからこそ、漢方という選択肢を丁寧に活用することで、妊婦さんにとって救いになる可能性があると感じます。
「妊娠悪阻への医学的なアプローチ」まとめ
- 海外ではボンジェスタ(ビタミンB6+抗ヒスタミン薬)がつわり治療の第一選択として使用されており、日本でも承認が検討されている。
- 漢方薬(小半夏加茯苓湯、半夏厚朴湯など)はつわりの身体的・精神的症状に有効。妊婦は基本的に虚証だが、小半夏加茯苓湯は冷服する。
- 器官形成期にあたる妊娠初期の服用は慎重に行うべき。特に甘草を含む漢方薬の併用や長期使用には注意が必要であり、妊婦の状況に合わせた主治医の判断が不可欠である。
座談会まとめ
妊娠悪阻の症状や対処法は多様で、個別対応が不可欠:
つわりの症状や食べられるものは人によって、また妊娠の回数ごとに異なる。食べられる食品を模索し、匂いづわり・食べづわり・よだれづわりなどの症状に応じた工夫(分食・匂いを避ける・調理不要の食品活用)が必要。治療法としては、西洋医学・漢方ともに選択肢があり、ビタミンB6や小半夏加茯苓湯などの有効性も議論された。
職場の理解と環境整備が仕事との両立のカギ:
つわりの症状や食べられるものは人によって、また妊娠の回数ごとに異なる。食べられる食品を模索し、匂いづわり・食べづわり・よだれづわりなどの症状に応じた工夫(分食・匂いを避ける・調理不要の食品活用)が必要。治療法としては、西洋医学・漢方ともに選択肢があり、ビタミンB6や小半夏加茯苓湯などの有効性も議論された。
家庭での支援と共感が妊婦の心身を支える:
つわりは「終わりの見えないしんどさ」が大きく、家族の支援が精神的にも重要。実務的な家事だけでなく、「大丈夫?」という共感の言葉が大きな支えになった。サポートには意図と結果のズレが起きやすく、「具体的に伝える」ことが鍵。上の子のケアでは、メディアや周囲の手を借りて母親の休養時間を確保する柔軟さも必要だった。
AIMEDは、このような「気になるけど病院で医師に聞きにくい」「本当のところが知りたい!」という皆様の質問にお答えするメディアです。【医師に調査をリクエスト】から、ご質問をいただきましたら、本記事のように医師が座談会を開催して、皆様のご質問を検討いたします。ぜひお気軽にお問い合わせください。