「話を聞くだけ」は手抜きじゃない?お医者さんが診察室で考えている「診断」の裏側
イントロダクション
「せっかく病院に行ったのに、先生は話を聞くだけで検査もしてくれなかった……」
そんな風に、少し物足りない気持ちで診察室を後にしたことはありませんか?実は、医師が患者さんの話に耳を傾け、お腹に手を当てるその短い時間のなかにこそ、病気の正体を見抜くための「プロの技」が凝縮されています。
本記事では、総合診療医と外科医という異なる視点を持つ3名の医師が、「診断の舞台裏」を語り合った様子をお届けします。
【参加医師の自己紹介】
医師13年目。市中病院から大学病院、クリニック外来、訪問診療まで幅広く経験。総合診療専門医で、現在は複雑・困難事例を含む「なんでも外来」を担当。
医師11年目。大学病院で呼吸器外科医として肺がんの手術を中心に担当。地方での外科研修や訪問診療、救急の夜勤経験もあり。
医師10年目。大学病院や市中病院で肺がん手術に従事。現在は救急外来と並行して企業の産業医も務めている。
テーマ①患者さんの話を“ただ聞く”だけじゃない?
ーーまず最初のテーマは、「診察室での会話」です。
医師は、患者さんのどんな言葉に耳を傾け、何を考えながら話を聞いているのでしょうか。
それでは最初のテーマ、「患者さんの話を“ただ聞く”だけじゃない?」について話していきましょう。
医療面接は「9割の診断がつく」と言われるくらい重要ですが、一部の患者さんからは「あの医者は話を聞くだけで検査をしてくれない」といった声もありますよね。問診や医療面接で意識していることってありますか?
私自身は、ベテランになるほどSystem1(直感的思考)で判断しがちなので、あえてSystem2(論理的思考)を意識して、網羅的に聞き取るよう心がけています。特に夜間の救急外来では、SMA症候群など思わぬところで足元をすくわれそうになることもあり、注意が必要ですね。
本当にそうですね。患者さんから「話を聞くだけ」という不満の声を耳にすることもあります。私が気をつけているのは、「なぜ今日来院しようと思ったのか」「何が心配か」など、表層の言葉の奥にある気持ちや状況を汲み取ることです。
もちろん、それをそのまま検査に反映するわけではありませんが、背景を理解することで思わぬヒントが得られることもあります。
咳の診療では痛みの問診で使われるOPQRSTを応用して使うことがあります。正式なガイドライン通りではないですが、情報の整理として有効だと感じています。
O(発症時期)・P(増悪/緩和因子)・Q(質)・R(関連症状)・S(重症度)・T(時間的経過)に加え、喫煙歴や職業歴などは別枠で必ず聞くようにしています。
ーー専門は異なっても、基本となる「型」があって、それを状況に応じて柔軟に応用している感じなんですね。
お二人とも、基本となる「型」があって、それを状況に応じて柔軟に応用している感じですね。診断って、単に病気の有無だけじゃなくて、患者さんの社会的背景も含めて診るものだと改めて思います。
まさにその通りです。教科書通りに診断できるケースもありますが、診断が難しいときには、患者さんの何気ない一言や仕草がヒントになることもあります。私はOPQRSTに加えて、プラスαを意識しています。
私は外科がメインで、内科診療には不慣れなところもあるので、聞き漏らしがないよう系統的に問診を進めるようにしています。もちろん、患者さんの気持ちに寄り添う姿勢も大事ですが、情報を積極的に取りに行く姿勢も欠かせません。
ただ、急に質問攻めになるのも配慮が必要なので、「今回の診断と治療に関係あるかもしれないので…」と前置きするようにしています。
その「枕詞」、悩みますよね。私も学生時代に「仕事を聞くのは失礼じゃない」と指導医に怒られたことがあります。初診のときは「一般的なこともお聞きしますね」といって、内服歴や社会歴を尋ねるようにしています。
若い頃は妊娠歴や性活動歴を聞くのに抵抗がありましたが、今は淡々と聞けばむしろ問題にならないと感じています。
デリカシーがないのもよくないですが、気をつかいすぎるとぎくしゃくしますし、バランス感覚が大事ですね。
咳がつらい状況でペットの飼育歴を聞いたとき、「え、それ聞くの必要?」という顔をされたこともありました(笑)
ーー診察室で交わされる言葉のひとつひとつが、
診断への大切な手がかりになっていることが伝わってきました。
「患者さんの話を“ただ聞く”だけじゃない?」のまとめ
- 医療面接は診断の出発点であり、体系的な情報収集と柔軟な対応を両立させることが重要である。OPQRSTなどのフレームを活用しつつ、患者の主訴や背景に応じて問いの立て方を調整する姿勢が、診断の精度を高める。
- 問診は、単に話を聞くだけでなく「どのように聞くか」が質を左右する。初診時の枕詞や言葉選び、デリカシーへの配慮といったコミュニケーション技術が、患者との信頼関係を築くうえで欠かせない。
- 問診では症状だけでなく、職業や生活環境、服薬歴といった社会的背景を含めた全体像を把握することが不可欠である。診断に関係しそうな情報を系統的に収集する意識が、見落としのない診療につながる。
テーマ②どこが痛い?だけじゃない。体を“どう見ているか”
ーーでは次に、身体診察について伺います。医師は、体に触れながら何を見ているのでしょうか?
お腹を触ったり、聴診器を当てたりしていると、患者さんから「適当に診てるだけじゃないの?」と思われているんじゃないかと感じることがあります。実際はちゃんと診ているのですが…。なので、大量に診ないといけないとき、例えば健康診断で大量の患者さんを診るときなどは、丁寧に聴診していくのは本当に大変です。更に、小中学生の健診では、盗撮などの問題もあって診察の配慮にも神経を使います。
皆さんは身体診察について、どのように実践されていますか?
訪問診療では、たとえ診断に必須ではないと思っても、なるべく手を当てるようにしています。高齢の方が多いので、診察そのものが心理的な安心感につながると感じています。呼吸器診療では、強制呼気のwheezeなど、自分の耳で確認したいこともありますね。消化器外科では、腹部触診が手術適応の判断材料になることもあります。腹膜刺激徴候の強さや局在によって、緊急手術にするか待機手術にするか判断することもあります。
なるほど、腹膜刺激症状があると、僕たちは日中なら精査してから紹介しますが、夜間は外科にすぐ紹介してしまうので、「強さ」の観点は非常に勉強になります。外科の先生は診察所見と実際の臓器の状態の違いを肌で理解されている分、そのあたりの感覚が研ぎ澄まされている印象があります。
ーーたけちん先生はいかがでしょうか?身体診察で意識されていることはありますか?
身体診察でまず意識しているのは、当然かもしれませんが、患者さんが一番訴えている部位を最優先で診ることです。咳が出ていれば聴診、お腹が痛ければ腹部診察というふうに。ただ、それ以外の状況にも注意を払うようにしています。
たとえば、お腹が痛いと来た患者さんで、実際には腹部に明らかな所見がなく、背中に叩打痛があったというケースもありました。喉が痛いと来院された小児で、診てみたら全身に皮疹があったということもあります。検査はすぐできますが、身体診察は患者さんに最も近い場所で行うものですし、短い時間の中でどれだけ情報を得られるかは、診断に直結すると思っています。
おっしゃる通りです。強さというのは主観的ですし、高齢者や糖尿病患者、女性など、痛みを訴えにくいケースもあります。CTを見ていて「小腸が狭くなっているけど、これは本当に閉塞か? それともたまたまそう見えているだけか」と迷うときに、その部位にピンポイントで圧痛があれば、オペに行く理由になります。腸閉塞で実際に壊死が進んでLacが上昇するのはかなり後ですし、その前に診察所見で判断できることがあると考えています。もちろん100%わかるわけではありませんが、それでも重要な判断材料になります。
確かに、症状が先に出て検査値が遅れてくる、というタイムラインは理解していましたが、身体診察が検査値に先行するという視点は、外科のように直接見る科じゃないと実感しづらいかもしれません。Lacも、組織が壊死してから血中に流れて上昇するという流れを考えると、身体診察でその兆候を先に捉えることの意味は非常に大きいですね。
まとめると、外科ならではの視点として、診察所見がオペの判断やそのタイミングに影響を与えること、主訴と異なる場所に異常があることもあるため、全身を見渡す必要があること、そして限られた時間の中でそれをやり切る難しさと重要性を改めて感じました。
ーー身体診察の奥行きが見えてきました。ここで一度整理してみましょう。
「どこが痛い?だけじゃない。体を“どう見ているか”」のまとめ
- 身体診察は、診断精度を高めるうえで欠かせない臨床判断の根幹である。検査や画像だけでは捉えきれない症状のニュアンスや“現場の温度”を把握する手段として、診療の第一歩として今も重要な役割を果たしている。
- 身体診察には心理的な安心感を与える医療行為としての側面も大きい。とくに高齢者や訪問診療の場では、医師が実際に触れて診ること自体が信頼関係の構築につながり、患者の不安を和らげる効果を持つ。
- 限られた時間や情報の中では、「どこを、どう診るか」という判断力が問われる。主訴とは異なる所見を拾い上げたり、治療や手術の適応を見極めたりするうえで、診察力はそのまま臨床力に直結する。全身を俯瞰して診る視点が、質の高い診療には求められる。
テーマ③検査すれば全部わかる?
ーー続いては、多くの方が疑問に感じやすい「検査」についてのテーマです。
検査は本当に、すべてを教えてくれるものなのでしょうか。
“とりあえず血液検査してほしい”“CT撮れば何かわかるはず”というニーズは多いですが、事前確率を考えずに検査しても意味がないことも多いです。検査をしても“わからない”ケース、“逆に迷う”ケースもあり、説明も難しい。血液検査で“全部わかる”と誤解されている方も多いですが、医師には“検査を使いこなす力”が必要です。
救急の場ではすぐに検査をする必要がある場面も多いと思いますが、検査のタイミングや、逆に“使わない判断”についてお二人はどうされていますか?
検査は“万能レンズ”ではなく“倍率可変の虫眼鏡”のようなもので、“どこを拡大するか”をはっきりさせないと見えてくるものもぼやけてしまいます。たとえば虫垂炎では『Adult Appendicitis Score』、肺塞栓なら『Wells』や『YEARS』といったリスクスコアを活用することで、“この人に今CTを撮るべきか”の判断が数値で整理できます。説明にも使いやすいですね。
また、診断より“診断的治療”を優先するケースもあります。オペ室のリソースの問題で、悪化する前に手術を選ぶという施設方針もあります。正確な評価に基づいて保存加療が望ましいとされる場面でも、“リソース不足で手遅れになる前にオペ”という現場判断があると感じています。
診断的治療というのは外科の側面が強いかもしれません。たとえば、保存的治療でよくなる可能性があっても、外科的治療の方が早期回復を期待できるといった場合ですね。虫垂炎もその一つでしょう。呼吸器外科では気胸や膿胸などが挙げられます。
画像に頼りすぎないという点では、“直接見た方が確実”という感覚も外科にはあります。実際に、画像所見と手術所見が違うこともありますから。画像、身体所見、直感を総合的に判断することが重要だと考えています。
手術室のリソースという話は想定していましたが、“保存加療がガイドライン上は第一選択でも、Opeを選択すること”に対して、患者さんとのやりとりはどうしているのか気になります。その辺りはガイドラインだけで語れない広い視点で見ていく必要がありそうです。
僕自身はもう何年もOpe室にすら出入りしていないので、肌感覚がなかなか分からず…お話、とても勉強になります。
ーー検査との向き合い方についても、整理してみましょう。
「検査すれば全部わかる?」のまとめ
- 血液検査や画像検査は有用な情報を与えてくれる一方で、すべての答えが検査から得られるわけではない。検査結果を正しく解釈するためには、事前の問診や診察による情報、そして医師の臨床判断が不可欠であり、検査の万能視は誤解である。
- 事前確率やリスクスコアを活用することで、より合理的な意思決定が可能となる。疾患の可能性を見極めたうえで検査を選択することで、無駄な検査や不必要な侵襲を避け、患者にとっても医療資源にとっても適切な診療につながる。
- 外科の現場では、時間的制約やリソース、患者の全身状態や回復を考慮した迅速な判断が求められる。必ずしも教科書通りの対応が最善とは限らず、状況に応じた柔軟な判断が臨床の質を左右する。
テーマ④ 診断を“どう伝えるか”
ーー最後のテーマは「診断の伝え方」です。医師は、どのように言葉を選んでいるのでしょうか?
診断を伝えるって、すごく難しい仕事だと常々思います。特に「がん」や「SFTS」みたいに重い疾患の場合は、ただ正しく伝えれば良いわけではないですから。だから私は、診断に至った理由、これからの選択肢、そして患者さん自身がどう生きたいか、希望も含めて整理して伝えるようにしています。
外科の先生方って、「手術が必要です」って話すことが多いと思うのですが、診断の伝え方で気をつけていることや、診断後の患者さんへのフォローで意識されていることはありますか?
たしかに診断ってとてもセンシティブですよね。肺がんの場合、病理で100%診断がつかないこともあります。けれど、進行の可能性が高い場合には治療に踏み切らざるを得ない。
このとき、私は「なぜ完全な診断が難しいのか」「それでも治療が必要な理由」を患者さんにしっかり説明します。そのうえで、「放置した場合のリスク」と「治療することで得られるメリット」を明確に伝えて、納得してもらえるよう心がけています。
すごくよくわかります。僕らは診断がつきそうだと、専門科に紹介することが多いのですが、紹介の段階でも「●●癌を強く疑います」と明言するようにしてます。でないと、紹介先で「そもそも何も伝えられてない」と言われることが本当に多いんですよ。
たとえば、「糖尿病とは言われたことない」と言われるのにインスリン打ってる人とかもいて…。たぶん診断を曖昧に伝えてしまっているか、患者さんが正確に受け止められていないのか、そのあたりのズレってすごく大きいなと思ってます。
その通りですね。私も診断名を伝えるときは、前医がどこまで説明していたのかを必ず確認します。「がんの疑い」と言われた人もいれば、「何も言われてない」という人もいて、対応の仕方が変わってきますから。
それと、我々が行うような気管支鏡や手術って、必ずしも治療目的ではなく診断目的のことも多いんです。そういうときは、治療(治る可能性)と比べると、診断だけのための侵襲的な処置は患者さんも不安になりやすい。だからこそ、「なぜこの処置が必要か」「今やるメリットは何か」をきちんと説明し、納得してもらうことを大事にしています。
それ、すごく大事ですね。家族説明のときも要注意で、本人にはしっかり話していたのに、家族には「そんな話は初耳です」と言われることもあります。そういう場合は「本人からどう聞いていますか」と最初に確認して、どこまで遡って説明すべきか判断するようにしています。
あらためてお二人の話を聞いて感じたのは、「診断が100%確定していなくても、なぜその判断に至ったのかを丁寧に説明する」ことが共通しているなということです。それが患者さんの納得と信頼につながるんだと再認識しました。
ーー診断の重みと、伝え方の難しさがよく伝わってきました。
「診断を“どう伝えるか”」のまとめ
- 診断が未確定な段階であっても、患者さんへの説明は欠かせない。確定診断が難しい場合でも、現時点で考えている可能性や治療の必要性、その判断に至った理由を丁寧に伝えることが、患者さんの不安軽減と信頼関係の構築につながる。
- 紹介患者を診る際には、前医からどこまで説明を受けているかを必ず確認することが重要である。説明内容や理解度をすり合わせることで、患者さんやご家族との認識のズレを防ぎ、診療の混乱を避けることができる。
- 治療ではなく診断を目的とした侵襲的処置では、患者さんの不安が特に強くなりやすい。そのため、目的や必要性、考えられるリスクについて十分に説明し、納得を得たうえで進める姿勢が求められる。
ーーここまで4つのテーマを通して、診断のさまざまな側面がみえてきました。最後に、全体を振り返って整理してみましょう。
座談会全体のまとめ
診断は、「聞く・診る・伝える」という三要素がそろって初めて成立する。体系的かつ柔軟な問診、患者の不安を和らげる身体診察、社会的背景の把握が相互に補完し合い、検査だけでは拾えない情報を含めた総合的な臨床判断が求められる。
検査や処置は目的と文脈を持って行うべきであり、「とりあえず検査」は必ずしも正解ではない。リスクスコアや臨床判断を根拠に、なぜその検査・治療を選ぶのかを整理し、患者さんと共有することが重要である。状況によっては、リソースや時間制約を踏まえた柔軟な判断も必要となる。
診断の内容だけでなく、「どう伝えるか」が医師への信頼を左右する。確定診断に至っていない場合でも、判断の理由や今後の方針を明確に説明することが大切であり、紹介先やご家族との情報共有でも認識のズレを防ぐ姿勢が求められる。特に診断目的の処置では、不安に配慮した丁寧な説明が欠かせない。
監修
あらた先生
・氏名 高宮新之介 ・出身大学 昭和大学 ・経歴 大学病院で初期研修を終えた後、外科専攻医として勤務。静岡赤十字病院で消化器・一般外科手術外科を経験し、外科専門医を取得。昭和大学大学院 生理学講座 生体機能調節学部門を専攻し、脳MRIとQOL研究に従事し学位を取得。昭和大学横浜市北部病院の呼吸器センターで勤務しつつ、週1回地域のクリニックで訪問診療や一般内科診療を行っている。 ・資格 外科専門医。医学博士。がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修会修了。JATEC(Japan Advanced Trauma Evaluation and Care)修了。ACLS(Advanced Cardiovascular Life Support)。BLS(Basic Life Support)。 ・診療科目 一般外科、呼吸器外科、胸部外科、腫瘍外科、緩和ケア科、総合内科、呼吸器内科、乳腺外科 *一般外科は消化器外科、小児外科、甲状腺外科、脳神経外科などを含みます。 *総合内科は消化器内科、循環器内科、救急科疾患などを含みます。また簡単な骨折など含め整形外科なども診察します
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