「脳の燃料」を正しく補給して集中力を引き出す。運動・勉強の成果を高める補食マネジメント
監修
高宮 新之介 医師
昭和大学卒業 大学病院で初期研修を終えた後、外科専攻医として勤務。静岡赤十字病院で消化器・一般外科手術外科を経験し、外科専門医を取得。昭和大学大学院 生理学講座 生体機能調節学部門を専攻し、脳MRIとQOL研究に従事し学位を取得。
昭和大学横浜市北部病院の呼吸器センターで勤務しつつ、週1回地域のクリニックで訪問診療や一般内科診療を行っている。
外科専門医医学博士・がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修会修了・JATEC(Japan Advanced Trauma Evaluation and Care)修了・ACLS(Advanced Cardiovascular Life Support)・BLS(Basic Life Support)
イントロダクション
仕事中や勉強中、あるいはスポーツの合間に「なんだか集中力が切れてきたな……」と感じることはありませんか?実はその集中力の低下、単なる「やる気」の問題ではなく、脳のエネルギー不足やネットワークの切り替え不具合が原因かもしれません。
今回は、外科医や産業医、腎臓内科医といった異なるバックグラウンドを持つ3名の医師が集まり、「集中力を最大限に引き出すための食事と補食のルール」について語り合いました。
脳のパフォーマンスを支える医学的なメカニズムから、今日から試せる具体的な食べ物まで、専門知見を分かりやすくお届けします。
【参加医師の自己紹介】

たけちん先生@呼吸器外科・産業医
2016年医師免許取得。大学病院や市中病院で肺がん手術を中心に行い、現在は手術を継続しつつ救急外来や産業医活動も並行。集中力とパフォーマンスの関係に強い関心を持つ。

しまりす先生@腎臓内科
2009年医師免許取得。腎臓内科として外来、入院、透析を経験。近年は非常勤勤務。年齢とともに集中力の低下を実感し、また子どもの受験を控え「集中力を高める補食」にも興味を持つ。

あらた先生@呼吸器外科
2015年医師免許取得。肺がん手術を専門とし、脳MRIを用いた術後QOL改善研究にも従事。アスリートや経営者のパーソナルドクターとして集中力向上の指導も行っている。
テーマ① 集中力のメカニズム、なぜ集中力が落ちるか
ーーまずは基本的なところから伺いたいのですが、集中力とは医学的にはどういう状態なのでしょうか?
では、最初のテーマ「集中力のメカニズム、なぜ集中力が落ちるか」についてお話ししたいと思います。
「集中力」とは、医学的には前頭前野が司る機能です。ドーパミンやノルアドレナリンといった神経伝達物質がそのスイッチ役を果たしています。これらが適度に働くことで必要な情報を取捨選択し続けられるわけです。脳のエネルギー源であるブドウ糖も重要で、血糖が低下すると集中力も落ちます。
さらに神経伝達物質の消耗や血流低下で疲労を感じやすくなり、注意を保つのが難しくなります。また、ストレスによりコルチゾールが増えると前頭前野の働きが乱れ、さらに集中しにくくなるのです。例えば朝食を抜いた状態では記憶や計算能力が落ちることが知られています(参考1)。
朝食を抜いた場合に特に記憶課題で成績が落ちるという報告は面白いですね。
単語リストの想起や物語の再生、逆数えなどで影響が見られる一方、知能テストには影響しない。つまり朝食は特定の記憶処理に大きく関わるということなのでしょうね。
おっしゃる通りです。短期的な集中力が維持できず、特定の記憶課題に悪影響を与えているのだと思います。
私も非常に納得しました。患者さんに説明する際にも「脳のエネルギーが不足すると集中力が落ちる」と具体的に伝えやすいですね。
さらに神経伝達物質が消耗すると雑念が増えたり、軽度の脱水でも集中力が低下したりする点も重要です。長時間の注意持続は「メンタル・ファティーグ(精神的疲労)」と表現され、脳の注意システム資源が消耗する結果だとされています。
また、単調作業ではデフォルトモードネットワークが活性化し、マインドワンダリングが増えるとも報告されています。さらに、外部刺激を抑制し続ける前頭前野の抑制機構が疲弊して注意力が下がる「Directed Attention Fatigue」の概念もあります。
「集中力が落ちる」という現象は単に脳が疲れるだけでなく、脳内ネットワークの切り替えの不具合とも捉えられます。
集中しているときはタスクポジティブネットワークが優位ですが、疲労やエネルギー不足で抑制が弱まるとデフォルトモードネットワークが活性化し、雑念に引っ張られてしまうのです。これも血糖低下などが原因で起こることが知られています(参考2)。
なるほど。集中力の低下は「エネルギー不足」「神経伝達物質の枯渇」「ネットワーク切り替え不全」という複数の要素が重なって起きるわけですね。
——ここまでのお話を整理すると、集中力の低下にはいくつかの要素が重なっていそうですね。今日のテーマを簡単にまとめてみましょう。
「集中力のメカニズム、なぜ集中力が落ちるか」のまとめ
- 集中力は脳の前頭前野と神経伝達物質の働きに支えられており、血糖や血流、ストレスホルモンも大きな影響を与える
- 朝食を抜くと記憶課題の成績低下が見られ、エネルギー供給不足が集中力低下の一因となる
- 集中力低下は「脳の疲労」だけでなく、タスクポジティブネットワークとデフォルトモードネットワークの切り替え不全という観点でも説明できる
テーマ② 集中力を維持する方法
——では、集中力をできるだけ長く保つには、どんなことを意識すればいいのでしょうか?
集中力を長時間維持するには、まず「脳の燃料補給」を考える必要があります。脳は体重のわずか2%しかないにも関わらず、身体の全エネルギーの20%を消費します。つまり数字だけ見れば非常に燃費の悪い臓器ですが、それだけエネルギーを必要とする重要な臓器でもあります。そのエネルギー源は主にブドウ糖です。血糖が安定していなければ集中は続きません。実際、朝食を摂った群では記憶課題の成績が改善する報告があります。朝食を抜いて勉強や仕事に臨むのは、燃料を入れずに走り出す車のようなものです。
もうひとつは水分。体の水分が2%減るだけで注意力や短期記憶が落ち、疲労感や不安感が増します(参考3)。喉が渇いたときにはすでに軽い脱水ですから、意識的にこまめに飲むのがいいですね。
さらに「注意資源は有限」だという点も忘れてはいけません。長時間続けると脳の神経伝達物質が消耗し、雑念が増えるマインドワンダリングが起きやすくなります。軽いストレッチや深呼吸を交えながら短い休憩を挟むのが有効です。まとめると、
①食事で血糖を安定させる、②水分を補給する、③休憩でリフレッシュする、この三本柱が重要だと思います。
たけちん先生のお話、まさにその通りだと思います。私も糖と集中力について文献を見たことがあります。短期的にはブドウ糖の摂取で即時記憶が改善することが示されています(参考4)。ただし一方で、長期的に過剰な糖を摂ると認知機能に悪影響を及ぼす可能性があると報告されています。つまり「適度な補給」と「安定した血糖」がカギなんですよね。
また、朝食後と昼食後の違いも興味深いです。朝食後は認知機能が高まりやすいのに、昼食後は眠気が出やすい。おそらく血糖値の変動の大きさが関与していると思われます。ですので、午後の試験や会議に備える場合は、昼食後に軽い運動を取り入れると良いのではないでしょうか。
お二人がおっしゃる通り、集中力を語るうえで血糖値は避けて通れません。特に問題なのは急激な血糖上昇です。上がるとインスリンが大量に分泌され、その反動で下がり過ぎて眠気や倦怠感につながります。ですから食事内容を工夫する必要があります。
例えば、低GI食品を取り入れることです。GIとは食後の血糖上昇度を示す指標で、ブドウ糖を100とした場合の相対値です。食物繊維が多い食品や、タンパク質・脂質を含むものは血糖上昇が緩やかです。反対に白米やパンケーキ、ラーメンなどは急激に血糖を上げます(参考5)。私は学生にも「昼にラーメンは危険、午後は眠くなるから」とよく話しています。
耳が痛い話です…。朝はパンだけで済ませてしまうことも多いですし、おにぎりも白米が中心。でも実際に小松菜や豚肉を具に入れておにぎりを作ったら美味しかったんです。こうした工夫で血糖の安定に近づけるのかなと思いました。パンを食べるときはヨーグルトやサラダを一緒に摂る、というのも現実的に取り入れやすそうですね。
とても良い工夫だと思います。最近は市販食品でも「低GI」と表示しているものを見かけるようになりました。こうした情報を意識するだけでも違うと思います。
また、ここで補足したいのが「リズム」の視点です。人間の脳や体は約90分周期で活動と休息のリズムを刻んでいます。これをウルトラディアンリズムといいます。このリズムを無視して何時間も集中し続けようとすると、自然と脳が疲れて集中が途切れます。逆に90分ごとに短い休憩を入れると効率が上がります。大学の講義が90分以内に設定されているのもそのためですね。
なるほど、リズムを意識するのは盲点でした。確かに90分区切りなら実践しやすいですし、補食や水分補給のタイミングにもできますね。
同感です。血糖や水分だけでなく、リズムの考え方を取り入れると一層集中が持続しそうです。
——食事や水分だけでなく、リズムという視点もお話しいただきました。
このテーマのポイントも整理しましょう。
「集中力を維持する方法」のまとめ
- 集中力を維持するには脳のエネルギー源であるブドウ糖を安定して供給する必要がある。規則正しい食事や低GI食品の摂取が推奨される。
- 水分不足や糖分過剰は認知機能低下のリスクとなる。こまめな水分補給とバランスのとれた食事が不可欠である。
- 集中力は有限である。90分周期のリズムに合わせて休憩や軽い運動を取り入れることが集中力の維持に有効である。
テーマ③ 集中力に直結する食べ物
——具体的に、集中力を支える食べ物にはどんなものがあるのでしょうか?
集中力に直結する食べ物を考えると、まず血糖値の安定と水分補給が“土台”です。その上で大事な成分を3つ挙げます。
1つ目は神経伝達物質の材料になるアミノ酸。大豆製品や卵、乳製品のチロシンはドーパミンの材料に、魚や肉のトリプトファンはセロトニンをつくり、集中や落ち着きを支えます。
2つ目は青魚に含まれるDHAやEPAといったオメガ3脂肪酸。神経細胞膜を柔らかくし、情報伝達をスムーズにします。学習や記憶の改善効果も報告されています(参考6)
3つ目はカフェインとテアニン。コーヒーや緑茶のカフェインは覚醒を助けますが、摂りすぎは不眠や不安の原因に。
緑茶のテアニンはリラックス効果があり、カフェインと組み合わせて落ち着いた集中を生み出します。
さらにビタミンB群(B6・B12・葉酸)は神経伝達物質の合成に不可欠で、集中力を支える重要な栄養素です。
青魚を食べると“頭がよくなる”と昔から言われますが、実際にDHA/EPAの摂取は記憶力や注意力の改善に関連が示されています。特に週2回以上の摂取が推奨されますね。食生活で難しい人はEPA/DHAサプリやサバ缶も便利です(参考7)。
また、緑茶に含まれるテアニン100mgとカフェイン50mgを同時に摂ると、認知課題で集中力向上効果が出ることも報告されています(参考8)。手術前や長時間の会議前に飲むのは実用的です。
私は普段、ゆで卵やチーズ、ヨーグルトをよく摂っています。チロシンやトリプトファンを自然に補給できるのが良いですね。魚はシャケを食べることが多いですが、サバ缶を活用するのもよさそうです。
また、緑茶はカフェインとテアニンを一緒に摂れるので優れています。これまではコーヒーやチョコレートが中心でしたが、緑茶を意識して取り入れてみたいと思いました。
補足しますと、ビタミンB群が不足すると注意力低下や慢性疲労につながりますし、発酵食品(納豆・ヨーグルト・キムチなど)は腸内環境を整えて腸―脳相関を通じ、間接的に集中力を助けます。食事全体のバランスが重要だと改めて感じます。
私自身は緑茶をよく飲みます。落ち着いた集中が得やすいですね。また、高カカオチョコレート(70%以上を10〜20g)も時折摂ります。フラバノールによって短期的な注意力や処理速度が改善すると報告されています(参考9)。
私も72%のチョコレートを常備しています。美味しさと集中力の両立ができるので習慣化しやすいです。この座談会を機に緑茶もよく飲むようになりましたし、もともと毎日食べていたキムチや納豆、ヨーグルトも集中力に関係があるのだと再認識しました。
確かにチョコレート製品でも“集中力アップ”を謳うものがありますね。やはり、基本はバランスの良い食事で、その上でカフェインやチョコをうまく取り入れるのが効果的だと思います。
——特別な食品というより、日常の中で取り入れやすいものが多い印象ですね。
「集中力に直結する食べ物」のまとめ
- 集中力を高めるには、血糖・水分管理を基盤としつつ、神経伝達物質の材料となる栄養素を補給することが不可欠である。
- 実生活に取り入れやすい食品には、青魚(オメガ3脂肪酸)や緑茶(カフェイン・テアニン)高カカオチョコレート(フラバノール)などが挙げられる。
- 納豆、キムチ、ヨーグルトなどの発酵食品やビタミンB群を含む多様な食材をバランスよく摂ることが、持続的な集中力を支える基本となる。
テーマ④運動中や勉強中の補食の取り方
——運動中や勉強中の補食について、効果的な取り方はありますか?
補食の「取り方」は、まず「タイミング」が重要です。運動と勉強で分けて整理します。
・運動前:開始1〜2時間前に、体重1kgあたり約1gの糖質を含む軽食が有用です。たとえばバナナ+ヨーグルト。過量は胃の重さにつながり逆効果。
・運動中:60分以上の持久運動では、開始30分後から30〜60分ごとに30〜60gの糖質を分割補給するとパフォーマンス維持に有効と報告があります(参考10)。マラソンやロングライドではエナジージェルやスポーツドリンクを小分けに。
・運動直後:終了後30分以内(ゴールデンタイム)に糖質0.8〜1.0g/kg+タンパク質10〜20gを同時補給すると、筋グリコーゲン回復と次回への備えになります。
・勉強前:開始30〜60分前に低GI食品(全粒パン、オートミールなど)+少量のタンパク質。過量摂取は血糖変動や胃の不快感で集中を損ねます。
・勉強中:2〜3時間ごとの小休憩で約100kcalの軽い補食(ナッツ+果物、ヨーグルト等)を。運動時より間隔は長めでよい。
・長時間学習後:終了後1時間以内に炭水化物+少量のタンパク質で、消費したグリコーゲンの補充と疲労回復を支援。
これらを意識すると、血糖の安定と神経伝達物質の補給がスムーズになり、集中力と持久力を保ちやすくなります。
——運動と勉強では、補食の考え方に少し違いがありそうですね。
補食の中身に加え、「噛む」行為自体も注目です。ガム咀嚼が認知処理速度を高めうるとのシステマティックレビュー・メタ解析があり、エビデンスの質にばらつきはありますが、可能性は示唆されています(参考11)。
補食では咀嚼回数を増やせる食品(ナッツ、ドライフルーツ、ハードグミ等)を選ぶのも一法です。
咀嚼は前頭前野の賦活、海馬機能の維持など、脳機能に好影響を与える可能性が報告されています(参考12)。脳血流・代謝の向上、ストレス軽減の示唆もあります(参考13、14)。
ただし、効果は一過性という指摘もあり、試験や重要会議の直前〜開始直後など「ここ一番」に短時間活用するのが現実的です。
実務的には、「噛む補食」を選ぶことで栄養補給と脳刺激を同時に満たせます。
持久系では混合糖質90g/時の上限を意識しつつ、個人の胃腸耐性に合わせて調整を。学習では低GI+適量、必要に応じて短時間のガムなどを組み合わせるのが現実的だと思います。
同意します。味がなくなるまで噛み続ける必要はなく、短時間で切り上げるルールを決めると取り入れやすいです。
——タイミングや量を意識することが大切になりそうですね。最後のテーマもまとめてみましょう。
「運動中や勉強中の補食の取り方」のまとめ
- 運動前には体重1kgあたり1gの糖質を摂取し、運動中は30〜60分ごとに30〜60gを補給する。運動が2時間を超える場合はグルコースとフルクトースを併用し、最大90g/時を目安とする。運動直後は糖質0.8〜1.0g/kgにタンパク質10〜20gを組み合わせて摂る。
- 学習を始める前には低GI食品に少量のタンパク質を組み合わせて摂り、学習中は2〜3時間ごとに約100kcalの軽い補食を入れる。学習を終えた後は炭水化物に少量のタンパク質を合わせて回復を図る。
- ナッツなどの「噛む補食」を用いて咀嚼刺激を加える。ガムの効果は一過性であるため短時間かつ要所で用いる。咀嚼は前頭前野や海馬を賦活し、血流やストレス指標の改善に一定の効果が示されている。
——今日は、集中力のメカニズムから具体的な食事や補食の工夫まで、幅広くお話を伺いました。最後に全体を整理してみましょう。
座談会まとめ
集中力低下の主因は、前頭前野の機能疲労、燃料(特に水分およびブドウ糖)の不足、ならびにストレスの重畳である。これらにより集中モードと非集中モードの切替が不安定化し、注意が拡散しやすくなる。
集中力維持には、朝食を含む規則的な食事により血糖を安定化させること、口渇自覚前からのこまめな水分摂取、ならびに約90分ごとの立位ストレッチ・深呼吸・短時間歩行によるリセットが有効である。
食事および補食の実践としては、青魚・卵・大豆製品・ヨーグルト・発酵食品・緑黄色野菜にビタミンB群を組み合わせて日常的に摂取することを推奨する。飲料は緑茶を基本とし、コーヒーは過量摂取を避ける。間食は高カカオチョコレートの少量またはナッツ類を選択する。学習前には低GI食品とタンパク質を組み合わせ、学習中は2〜3時間ごとに約100kcalの補食を少量かつ定期的に摂取する。
参考文献
1.『Breakfast, blood glucose, and cognition』(American Journal of Clinical Nutrition)
2.『Cognitive performance and glucose fluctuations』(Nutrients)
3.『Mild dehydration impairs cognitive performance and mood』(British Journal of Nutrition)
10.『Carbohydrate intake during exercise』(Sports Medicine)
11.『Mastication and cognitive function』(Japanese Dental Science Review)
13.『Effects of chewing gum on cognitive function and mood』(Nutritional Neuroscience)
14.『Effect of chewing or compressing food on autonomic nervous activity in older adults』(Gerodontology)
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