生レバーやレアハンバーグで食中毒は起きる?典型的な症状や予防法を医師3名が解説
監修
石金 正裕 医師
40代感染症専門医・医学博士
国立感染症研究所実地疫学専門家養成コース(FETP)を経て2016年より国立国際医療センター勤務。一般感染症から輸入感染症や新興感染症まで日々奮闘中。新興感染症とAMR対策のWHO協力センターとしても活動中。掲載論文は約150本。
渡航歴約60カ国。夢は世界遺産制覇。
イントロダクション
今回寄せられた質問は「なぜ生レバーやレアハンバーグで食中毒が起きるの?」「どんな症状が現れる?」「食中毒の予防方法は?」です。
生レバーやレアハンバーグなどのレアなお肉は食中毒の原因になり得るということはわかっていても、その仕組みや具体的な症状、そして予防法がわからない方も少なくありません。
そこで感染症医を中心に3名の医師が生レバーやレアハンバーグと食中毒の関係や予防法を具体例を出しながら話し合いました。
【参加医師の自己紹介】

あらた先生@呼吸器外科
2015年医師免許取得。大学病院で呼吸器外科医として肺がん手術を中心に診療を行っている。これまで消化器診療や一般内科診療にも携わってきた経験があり、外来・救急の場で食中毒患者を診る機会も多い。実践的な視点での情報共有を重視している。

チラ先生@呼吸器内科
2015年医師免許取得。関東の総合病院に勤務する呼吸器専門医・総合内科専門医。一般内科外来や救急外来も担当しており、急性胃腸炎・食中毒症例を日常的に経験している。一般向けの説明のわかりやすさを重視。

シトラス先生@感染症
2007年医師免許取得。市中総合病院に勤務する感染症専門医。院内感染対策(ICT)や抗菌薬適正使用(AST)にも関与。幼少期のキャンピロバクター感染経験から、生肉摂取のリスクに強い関心を持つ。
食中毒とは?
——ではまず最初に、「食中毒とは何か」というテーマから始めたいと思います。
先生方は、一般の方にはどのように説明されていますか?原因や季節性なども含めて教えてください。
私はまず、「食中毒は、飲食したものを介して細菌やウイルス、あるいはそれらが作る毒素などが体内に入り、発熱・下痢・嘔吐・腹痛といった症状を起こす状態です」と説明しています。
多くの方がイメージしやすいのは、いわゆる急性胃腸炎に近い症状ですね。
原因としては、細菌・ウイルス・寄生虫のほか、毒キノコやフグのような自然毒、化学物質なども含まれることをお伝えしています。
季節性については、例えばカンピロバクターは加熱不十分な鶏肉摂取で一年中起こりえますし、ノロウイルスは特に冬場、11〜3月に多いですね。
統計的には、2024年度で食中毒事件は1,037件、患者数は14,229人、死亡は3人と報告されています。その中でもノロウイルスが最も多く、件数・患者数ともに突出しています(参考1)。
ただ、軽症で受診しない方も多いので、実際の発生数はもっと多いと考えています。
私も一般の方には、「食べ物を介してウイルスや細菌が体に悪影響を及ぼし、発熱・下痢・吐き気・腹痛を起こす状態です」と説明しています。
胃腸炎に近い病態、とお伝えすると理解されやすいですね。
具体例としては、冬場のノロウイルス、夏場のカンピロバクターやサルモネラを挙げます。
夏場では腸管出血性大腸菌も非常に重要で、過去には露店で販売された食品による集団発生もありました。
お祭りやイベントの時期はニュースにもなりますね。
——現場でよく遭遇する「食中毒に対する誤解」には、どのようなものがありますか?
よくあるのは、「食中毒=体に毒が入った状態なんですよね?」と聞かれることですね。
実際には、毒素が原因になるケースもありますが、多くはウイルスや細菌そのものが原因です。
もう一つは、「食中毒は人にうつらない」という誤解です。
原因が感染症であれば、食器や吐物、排泄物などを介して他人に感染するリスクがある点は必ず説明しています。
食中毒は「食べてすぐ症状が出る」と思われがちですが、数日後に発症するものもありますよね。
例えば、黄色ブドウ球菌のような毒素型では30分〜8時間以内に強い嘔吐が出ますが、
サルモネラは6時間〜6日、ノロウイルスは12〜48時間、
カンピロバクターは2〜5日、腸管出血性大腸菌は3〜8日程度と、かなり幅があります。
また、「冷蔵していれば安全」という誤解もよくあります。
例えばリステリア菌は冷蔵環境でも増殖できるため、冷蔵=安全ではないことは強調しています。
確かに重要なポイントですね。
もう一つ多いのが、下痢があるとすぐに止痢剤を使ってしまうケースです。
気持ちはよくわかりますが、基本的には原因物質を排出したほうがよいので、止痢剤は避けるよう説明しています。
外来でもよくありますね。「下痢止めを出してもらえませんか?」と聞かれることは多いです。
私も同様に、止痢剤は使わず整腸剤で様子を見ましょう、と説明しています。
下痢=止める、という感覚は自然ですが、「出し切ったほうが治りが早い」と伝えると、意外に納得される方も多い印象です。
最近は、ネットなどで正しい知識を持っている方も増えていて、説明するとすぐ理解される方も多いですね。
「食中毒とは?」のまとめ
- 食中毒は、食品を介して細菌・ウイルス・毒素などが体内に入り、急性胃腸炎様症状を起こす病態である
- 原因は毒素だけでなく、ウイルス・細菌が圧倒的に多く、季節や潜伏期間には幅がある
- 冷蔵保存や止痢剤使用などに対する誤解が多く、正しい理解と説明が重要である
生レバーやレアハンバーグのリスク
——続いて、生レバーのリスクについて伺いたいと思います。生レバーを摂取することで生じるリスクを教えてください
まず、生レバーの最大のリスクは腸管出血性大腸菌、特にO157だと考えています。
重症化すると血便だけでなく、溶血性尿毒症症候群(Hemolytic Uremic Syndrome:HUS)を発症し、腎不全や脳症につながることがあり、後遺症や生命に関わる可能性もあります。
そのほか、カンピロバクターもリスクになります。カンピロバクター感染症は、その後にギラン・バレー症候群を発症することもあります。
なお、日本では牛レバーの生食用としての販売・提供は、2012年から禁止されています。
——レアハンバーグにはどのようなリスクがあるのでしょうか?
次にレアハンバーグですが、ハンバーグはひき肉である点が本質的なリスクです。
肉の表面に付着していた菌が、加工の過程で内部まで混ざり込むため、生焼けでは食中毒のリスクが高くなります。
原因菌としては、腸管出血性大腸菌(O157など)やサルモネラ菌が代表的です。
実例としては、2011年のユッケ集団食中毒で多数の発症者と死亡例が出ていますし、2023年にもハンバーグ提供でO157が検出され、営業停止となった事例が報じられています。
ユッケの事例は私もよく覚えています。
腸管出血性大腸菌は、2〜9個程度の少量でも重症化し得ると聞きますし、とても怖いですよね。
また、「食べてすぐ症状が出るとは限らない」という点は、一般の方が誤解しやすいところだと思います。
数日後に血便や強い腹痛が出て、初めて食事と結びつくケースもあります。
——シトラス先生、生レバーやレアハンバーグのリスクについて、感染症の立場から補足があれば教えてください。
最も注意すべきリスクは、やはり腸管出血性大腸菌感染症だと考えています。
多くは腸管感染症で終わりますが、一定数でHUSを発症し、その一部が亡くなってしまう点が大きな問題です。
エビデンスの確立した治療法はなく、基本は予防が最も重要になります。
そのため、生レバーやレアハンバーグを避けること自体が、非常に大切だと思います。
そのほか、カンピロバクターやサルモネラにも注意が必要です。
これらは免疫が正常な方でも菌血症を起こすことがありますし、サルモネラの場合は感染性動脈瘤の原因になることもあります。
動脈瘤の基礎疾患がある方は、特に注意が必要ですね。
また、海外、特に東南アジアでは、生肉を介してストレプトコッカス・スイス菌血症を起こすことがあります。
そのほか、チフスやA型肝炎なども注意が必要です。
——東南アジアでの生肉関連感染症について、実際に見聞きされたご経験はありますか。
東南アジアで特徴的なのは、豚の生血から感染するストレプトコッカス・スイス菌血症ですね。
タイなどでは、滋養強壮として豚の生血のゼリーが振る舞われることがあります。
お祝いなどの場で出されることもありますが、私は遠慮するようにしています。
豚が持つ細菌が人にも感染する、人獣共通感染症の一つですね。
日本ではあまり聞き慣れませんが、豚の血や内臓を生や十分に加熱せずに摂取する文化がある地域では、一定数の患者が報告されています。
東南アジアでは比較的よく見られますし、日本でも散発的に報告があります。
日本での症例では、「豚との接触」がキーワードになります。
食肉加工業や豚の解体、農業などに従事している方が髄膜炎を起こした場合には、鑑別に挙げることが推奨されます。
「生レバーやレアハンバーグのリスク」のまとめ
- 生レバーや生焼けのひき肉料理は、腸管出血性大腸菌を中心とした重篤な食中毒リスクがある
- 牛レバーは内部まで菌が存在し得るため、生食提供自体が禁止されている
- 海外では文化的背景により、豚由来の人獣共通感染症など追加のリスクも存在する
食事の際の対策は?―家庭・外食で気をつけたいポイント
——一般の方は、肉による感染症でどのような点に気をつければよいのでしょうか。
まずお伝えしたいのは、「生肉」は避けてもらいたいということです。
それに加えて、唐揚げは中まで火が通っていないことも珍しくないので、「中までしっかり火が通っているか確認しましょう」という点は大事です。
やはり、生に近い、火が十分に通っていない状態のものを食べるのは避けるべきです。しっかり中まで火を通すことが大事です。赤みが強い、レアすぎる状態での提供や摂取は避けたほうがよいと思います。
また、牛レバーの生食のように、禁止されているものは摂取しないことも重要です。
ひき肉は表面の菌が中に混ざるので、レアは避けるべきです。過度のレアハンバーグは危険ですし、実際に食中毒が発生してニュースになったこともあります。
一般の方が混乱しやすいのは、「同じ生でも、なぜ危険度が違うのか」という点だと思います。
内臓、たとえばレバーは内部からも病原体が見つかることがあり、表面だけ炙っても管理が成立しにくい。一方で、ひき肉料理は表面の菌が中に混ざるので、中心まで十分に加熱できればリスクを下げやすい、という違いがあります。
——生肉を扱う調理器具はどのように取り扱えばよいのでしょうか?
生肉を扱う際にまな板や包丁、トングを分けること、使った後はすぐに洗剤でしっかり洗うこと、生肉を触ったら必ず手を洗うことも大切です。
食中毒は「生で食べた」ことだけでなく、生肉の汁がサラダや箸に付く二次汚染でも起こります。ですから、加熱だけでなく、触った手や器具、置き場所の管理も大事になります。外食では調理工程が見えない分、「絶対安全」とは言い切れない点も覚えておきたいところです。
レストランや家庭のBBQでも、トングの問題はありますね。特に小さい子どもと一緒に、食べ放題の店などに行くと要注意です。夏場の腸管出血性大腸菌感染症のアウトブレイクの典型的な要因として、「トングの使い回し」は非常にわかりやすい例だと思います。
焼肉のトングについては、自分も最初は生肉をつかむ用と取り分け用を区別していても、途中でどちらがどちらかわからなくなることがあります。
お店側で、生肉用と焼いた肉の取り分け用でトングの色を変えるなど、明確に区別してくれるとよいなと思うことがあります。
色で分けてくれると、たしかにわかりやすいですね。
私は焼けたあとの取り分けを箸で行うこともありますが、取り分け用の箸も使い回しの問題は起こりえますね。
そうですね。取り分け用の箸も、トングと同じような問題が起こりがちだと思います。
取り分け箸についても、食事に使う箸と同じではなく、取り分け専用のものを別にしておくとよいと思います。
飲食店ごとにそのような取り組みがされていると、食中毒の発生リスクはかなり抑えられるように思います。
家庭でも外食でも、加熱だけでなく、触れる道具を分けるという発想が大切ですね。
——ほかに、家庭内での解凍や作り置きなど、注意したほうがよいポイントはありますか。
食べ物は、なるべく常温放置をしないことが大切です。室温に置いて自然解凍するのはなるべく避けて、冷蔵庫か電子レンジで解凍するのがよいと思います。解凍中に肉汁が出ることがありますが、これが他の食品に触れないよう注意すべきです。
また、一度解凍した肉を再冷凍するのは菌の増殖リスクの点から避けたいところです。作り置きについても、なるべく常温放置はせず、速やかに冷蔵・冷凍で保存することが重要です。
解凍の話は、まさに家庭で見落としやすいポイントですね。
肉は解けかけのときに表面温度だけ先に上がって、菌が増えやすくなるといわれています。
海外の公的機関ではもう少し細かく整理されていて、冷蔵庫で安全に解凍した肉は再冷凍自体は可能、ただし品質は落ちやすいとされています。逆に、冷水解凍や電子レンジ解凍をしたものは、加熱せずそのまま再冷凍しないほうが安全とされていて、解凍の方法によって考え方が異なるのですね。
——完成した料理を常温で置いておくと食中毒のリスクが高まりますか?
常温放置については、厚労省の家庭向けページでも、温かい料理は65℃以上、冷たい料理は10℃以下が目安とされていて、調理前・調理後の食品を室温に長く放置しないよう案内されています。
O157は室温でも15〜20分で2倍に増えることがあるとされており、やはり「少しくらいなら大丈夫」と考えないことが大切です。
たしかに、夏の暑い環境で長時間の作り置きはリスクがありますが、そこまで頻繁にされるご家庭ばかりではないと思います。
それよりも、圧倒的に多いのは、唐揚げに火が通っていないことだと思います。
——唐揚げで「火が通っているか」の確認方法について、一般向けに指導されることはありますか。
食べる前に、中まで火が通っているか一度確認してくださいとお伝えすることはあります。
唐揚げは難しいですよね。私は大きめのものがあれば、まず数個を半分に割ってみて、中が赤くないか確認することがあります。子どもも食べますし。
自宅の唐揚げは比較的火が通っている印象ですが、外食時は要注意だと思います。
やはり外食時のほうが、より注意が必要なのですね。お酒も入ると、こうした確認を忘れてしまうこともあります。
「食事の際の対策は?―家庭・外食で気をつけたいポイント」のまとめ
- 生肉や加熱不十分な肉は避け、特に唐揚げ・レアハンバーグ・生レバーは注意が必要である。
- 食中毒は二次汚染でも起こるため、まな板・包丁・トング・箸を分け、手洗いを徹底することが重要である。
- 家庭では常温放置や不適切な解凍を避け、外食ではトングの使い回しや加熱不足に特に注意する必要がある。
座談会まとめ
今回の座談会では、生レバーやレアハンバーグのリスクや食中毒が起こる仕組み、予防法までを検討・討論いたしました。座談会のまとめはこちらです
食中毒は、食べ物を通じて細菌やウイルスに感染して起こるもので、誰にでも起こりうる
生肉や火の通りが不十分な食品は危険で、「中までしっかり加熱する」ことが最も重要である
食中毒は、「手を洗う・道具を分ける・長時間放置しない」といった基本で防ぐことができる
食中毒を予防するためには、生レバーやレアハンバーグを避けることだけでなく、調理器具や調理方法にも配慮する必要があるとのこと。外食でも家庭内でも、「生肉は危険!」という意識を持っておきたいですね。
このように、AIMEDでは皆様から寄せられた質問や疑問を、医師が中心に検討・討論いたします。病院では聞きにくいこと、調べてもわかりにくいことがありましたら、ぜひお気軽にお問い合わせください!
【参考文献】
食中毒統計資料.厚生労働省 健康・医療政策.https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/04.html
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