幹細胞とは?何に効果があるの?医療や美容での使われ方と付き合い方
監修
江口 瑠衣子 医師
2009年長崎大学医学部卒業
大学病院での初期臨床研修終了後、10年以上にわたり地域の基幹病院で腎臓内科の診療に従事
患者さん一人ひとりに寄り添った医療を心がけており、現在は内科・精神科の診療を行っている
腎臓専門医・総合内科専門医
イントロダクション
今回のAIMED座談会のテーマは「幹細胞」です。
「幹細胞とは何か」
「iPS細胞とはどう違うのか」
「医療や美容では、どのように使われているのか」
このような疑問について、産婦人科、再生医療、腎臓内科の医師3名が話し合いました。標準治療として確立しているものから、美容医療で注意が必要なものまで、幹細胞との付き合い方を考えます。
【参加医師の自己紹介】

イプ先生@産婦人科×医学教育
2015年医師免許取得。昭和医科大学の産婦人科に在籍し、現在は医学教育学を主な業務としている。医学生の指導、カリキュラム作成、国家試験対策支援などに携わっており、産婦人科の専門は周産期、超音波。産婦人科全般の外来業務も行っている。

らいおん先生@研究者・自由診療
2019年医師免許取得。学生時代にハーバード大学へ留学し、医学部卒業後すぐに大学院へ進学。現在は企業の顧問と研究者を兼任し、再生医療に従事している。美容皮膚科医として臨床に携わることもあり、基礎と臨床の両面から発言した。

しまりす先生@腎臓内科
2009年医師免許取得。腎臓内科医として勤務してきたが、現在は内科診療だけでなく精神科診療にも携わっている。今回の座談会では、患者さんにどう伝えるかという視点も交えながら発言した。
幹細胞ってなに?iPS細胞とはどう違う?
——患者さんから幹細胞について質問されることはありますか?
患者さんからは、「幹細胞って、そもそもどういう細胞なんですか?」「iPS細胞と同じようなものですか?」と聞かれることも多い印象です。
——患者さんにはどのようにお答えしていますか?
私自身は、「幹細胞は、自分と同じ細胞を増やす力と、別の細胞に変わる力を持った細胞です」と説明することが多いです。
体の組織を保ったり、傷んだ部分の修復に関わる万能な細胞というイメージですね。あとは映画「はたらく細胞!」の幹細胞役の子役の子のイメージが強いです。
一方でiPS細胞は、普通の細胞をもとに人工的につくられたもので、体の中にもともとある幹細胞とは少し違うものとしてお話ししています。
私も、イプ先生と同じように、以下の2点をわかりやすく言い換えて説明しています。
・自己複製能
・多分化能
「幹細胞は、自分と同じ細胞を増やす力と、ある程度決まった範囲の細胞に変わる力を持つ細胞です。体の修復に関わっています。一方でiPS細胞は、もともとの身体の細胞から人工的に作られていて、ほぼすべての細胞に変われるのが特徴です」
と説明することが多いです。
先生方の説明、すごく伝わりやすいですね。
私も基本的な部分は同じです。その説明をした後に、次の点が伝わりにくいかなと思うので気をつけて説明しています。
幹細胞はもともとそういう性質を持っています。
一方で、iPS細胞はほぼすべての細胞になれる能力を持つ細胞ですが、これは身体の細胞を人の手で操作しています。細胞を元の状態に近いところまで巻き戻し、さまざまな細胞に変わることのできる性質を取り戻したものです。
幹細胞については、「自分と同じ細胞を増やす力」と「別の細胞に変わる力」を持ち、体の修復に関わる細胞、という説明が一般の方にも伝わりやすそうですね。
また、iPS細胞は体の細胞を人工的に初期化して作られたもので、もともと体内にある幹細胞とは違う、という整理も大事だと感じました。
「幹細胞ってなに?iPS細胞とはどう違う?」のまとめ
- 幹細胞は自分を増やし、別の細胞に変わる力を持つ
- iPS細胞は身体の細胞を人工的に初期化したもの
- 幹細胞とiPS細胞は同じものではない
幹細胞は医療でどう使われている?
——実際に、幹細胞は医療の現場でどのように使われているのでしょうか?
以下の3つに分けて説明することが多いです。
①すでに確立された治療
白血病の骨髄移植などでは、幹細胞移植は何十年も前から行われている標準治療
②一部の先進医療
目、たとえば角膜や、心臓の心筋シートなどでは、条件付きで新しい再生医療が実用化され始めている
③自由診療・研究段階
自由診療では、膝関節に使われることが多い。美容皮膚科領域では、間質細胞、脂肪・歯髄・臍帯などに由来する幹細胞上清液やエクソソームを点滴する治療もある
正直なところ、私は実経験で幹細胞治療について詳しく説明するような機会はありませんでした。
らいおん先生の説明の中で、①については説明する機会もありました。
何十年も前から行われている標準治療も、実は幹細胞治療の一つなんだと伝えると、すでに幹細胞治療が行われていたのかと驚かれるかもしれませんね。
改めて患者さんの立場になって考えてみても、らいおん先生の分け方は非常に理解しやすいですね。
造血幹細胞移植のように、すでに標準治療として行われているものもあるのだと整理しやすいですね。
参考までに、厚労省の資料も共有しています。
——先生方は患者さんに「幹細胞治療って、どこまでが普通の医療なんですか?」と聞かれたら、どのように説明しますか?標準治療として話せるものと、まだ慎重に説明するものの線引きもぜひ伺いたいです。
標準治療は、①の造血幹細胞移植のような治療です。
②は、再生医療の早期導入のために、厚労省が前倒しで承認しているもので、「治療導入後のデータ収集」が義務付けられており、有効なデータが集まらなければ廃止の可能性もある境界線上の治療です。
③は完全に境界線から外れており、「まだエビデンスはありませんが、それでも良ければ自費で治療します」という領域です。
当然、①→②→③の順にリスクは高くなりますが、「慢性疼痛」のように、現代の治療では有効な治療法がない症状に対して、藁にもすがる気持ちで③の治療法を受ける患者さんもいます。
・病院
・医師
・設備、細胞の採取や培養工場など
がちゃんとしているかを見定めていただきたいです。
言葉は同じでも一律に良い悪いは判断できないと言えますね。誤解しないように注意が必要ですね。
病院、医師、設備の見定めについては非常に興味深いところだと思います。「これって大丈夫?効果ある?幹細胞美容と、検討時のチェックポイント」で深掘りしてみてもいいかもしれません。
「幹細胞は医療でどう使われている?」のまとめ
- 造血幹細胞移植は標準治療として行われている
- 再生医療には条件付きで実用化されているものもある
- 自由診療や研究段階の治療は慎重な確認が必要
美容でいう「幹細胞」は何を指している?
——続いて美容の領域で使われる幹細胞の定義や使われ方を伺いたいと思います。美容の世界における幹細胞とはどのようなものですか?
美容皮膚科では、空前の「エクソソームブーム」「幹細胞上清液ブーム」ですので、外来ではなくても知り合いから「再生医療関係の化粧品って効果はどうなの?」と聞かれます。
美容でいう「幹細胞」というのも3つに分かれています。
①化粧品、幹細胞上清液→肌の表面に作用
②幹細胞上清液の点滴→皮膚の深い層に作用
③幹細胞そのもの→美容では基本的に使わない
「幹細胞治療」といいながら、幹細胞そのものは投与されないところが誤解されやすいように感じます。
私自身は美容領域について患者さんから直接質問されることはほぼありません。
らいおん先生のお話を伺って、美容医療では「幹細胞」という言葉がかなり広い意味で使われている印象を受けました。
実際には、幹細胞そのものではなく、上清液などの幹細胞由来の成分が使われているにもかかわらず、「幹細胞」という言葉が前面に出ている印象ですね。
「幹細胞治療」という言葉のイメージと、実際に使われているものとの間にギャップがある点は、患者さんへの説明でも注意が必要なのかなと思いました。
おっしゃる通りですね。
注意したいのは、自由診療の医師もしっかりとした知識を持っていない場合があることですね。
次のテーマで深掘りされると思いますが、その効果と安全性については、どのようなことが明らかになっていて、どの程度信頼性があるのか、限界はどうなのかなど、どこまで医療者側が理解して提供しているのかは、ばらつきが大きそうですね。
美容医療では幹細胞自体は使用されず上清液が使用されているようですが、その期待される効果は、エビデンスはいったん置いておいて、以下の3点が代表的でしょうか?
①肌の修復・再生促進
②抗炎症作用
③メラニンへの影響
はい、情報も日々アップデートしているので、論文から情報を拾うのはなかなか大変です。
そうですね、幹細胞上清液にはさまざまな因子が含まれているので、効果もいろいろですが、「②抗炎症作用」がメインです。
③はメラニンへの直接的な影響というよりも、炎症後の色素沈着など、間接的な影響の方が説明がつくかなと思います。
抗炎症作用が中心なんですね。炎症制御を通じた肌の状態の改善というところでしょうか。
まずは点滴ではなく、化粧品など比較的取り入れやすい形で関心を持たれる方が多いかもしれませんね。
化粧品として使う場合と上清液の点滴では、期待できることや説明の仕方は変わってきますか?
一般の方はおそらく「点滴の方が良さそう」と感じるのではないかと思いました。一方でハードルが低いのは化粧品ですね。
ご意見いただけますと幸いです。
効果の内容は大きく変わらないですが、効果の大きさは、
点滴>注入>化粧品、肌への塗布
の順で期待できます。
また、それぞれターゲットが違います。
・化粧品:表皮
・注入系、局注・ダーマペン:真皮
・点滴:全身
ただし、点滴は皮膚だけをターゲットにするわけではないので、皮膚に幹細胞上清液がどれくらい届いているのか不明な点や、他の成分も全身に行き渡ってしまうというリスクもあります。
なるほど。やはり私は個人的には、効果よりも他にどのような影響があるかが気になるので、点滴よりはまず化粧品くらいで、という感覚です。
確かに、一般の方はイプ先生が言われるように、効果の方に着目される方が少なくなさそうですね。
はい、医学的な知識があると「副作用のリスクが少ない化粧品から」と考える方が多いですが、そうでないと「とりあえず効果が出やすそうな点滴から」となってしまうのが怖いところです。
クリニックとしても、点滴の方が儲かるので、美容クリニックの倫理観と経営のバランス感覚が問われます。
たしかに、効果の大きさだけでなく、どんなリスクがあるのか、どう説明されているのかも大事ですね。
点滴のほうが効きそうに見えても、その分慎重に考える必要があるのだと感じました。
「美容でいう「幹細胞」は何を指している?」のまとめ
- 美容での「幹細胞」は上清液などを指すことが多い
- 幹細胞そのものを使うとは限らない点に注意
- 点滴は全身に作用するため慎重に考える必要がある
これって大丈夫?効果ある?幹細胞美容と、検討時のチェックポイント
——患者さんとしては、「結局、幹細胞美容って本当に受けて大丈夫なの?」「どんな点を確認してから検討すればよいの?」が気になるところだと思います。このあたりいかがでしょうか?
今の時点での科学的な根拠で考えると、「化粧品や幹細胞上清液を用いたダーマペンなど、限局した皮膚に使うものだけに限る」というのが安心だと考えています。
幹細胞上清液には、未知の成分が入っている可能性は完全には排除できておらず、点滴での全身投与はリスクが高いと考えます。
らいおん先生のおっしゃるとおりだと思います。現時点では、リスクとベネフィットのバランスを考えると、局所、つまり皮膚への使用に限って検討するという線引きをお伝えすることは、患者さんの安全を守るうえで非常に重要だと感じました。
局所での使用に限って慎重に検討する、という線引きはとてもわかりやすいと思います。
もし患者さんから「受ける前に何を確認すればいいですか?」と聞かれたら、先生方はまず何をチェックするようお話しされますか?
・どこでどうやって確認すればいいのか
・どういう根拠で勧められているのか
・医師に確認できる場合はどのように聞くのが良いか
このように、「これは確認したほうがよい」という点があればぜひ伺いたいです。
保険診療にも共通して言えることですが、大前提として、儲け主義ではなく患者さんに寄り添ってくれる「信頼できる医師」と出会えるかですね。
その上で、以下の3点でしょうか。
・再生医療の工場
・幹細胞上清液なのかエクソソームなのか
・医師が自分でも施術を受けているかどうか
エクソソームは、幹細胞上清液に含まれています。幹細胞上清液は、幹細胞を培養した上澄み液なので、種々のサイトカインなどが入っており、すべての成分の安全性を確認することは不可能です。
先生のおっしゃる通りだと思います。信頼できる医師や医療機関であることはとても大切ですよね。
最近は厚生労働省からも再生医療に関して注意喚起が出されており、届け出内容と異なる治療や、安全管理体制に課題があるケースも指摘されていると聞いています。
患者さんとしては、
・どのような体制で製造・管理されているのか
・どの範囲まで安全性が確認されているのか
・万が一の際の対応体制があるのか
といった点も含めて確認することが、より重要になってきているのかなと感じました。
らいおん先生がおっしゃる「自分でも施術を受けているかどうか?」は強力なポイントになる気がします。
再生医療は法規制が追いついていないので、どうしても対応が後手後手になっていますね。
私自身も、今回のお話を伺って、幹細胞美容は一律に良い悪いで判断するのではなく、少なくとも現時点では局所での使用にとどめて慎重に考えるのが良いと感じました。
効果だけでなく、何が使われているのか、どこまで安全性が確認されているのか、説明がきちんとされているのかを確認することが重要ですね。
そうですね、医師の中でもまだ最新の知識が浸透していませんが、エクソソームは抗がん剤に応用できる可能性も秘めています。
不必要に怖がらずに、今後の良い可能性が実現されて、本当に患者さんのためになるように進んでいったらいいですね。
「これって大丈夫?効果ある?幹細胞美容と、検討時のチェックポイント」のまとめ
- 幹細胞美容は局所使用に限って慎重に検討する
- 上清液やエクソソームの内容・安全性確認が重要
- 信頼できる医師や管理体制を確認する必要がある
座談会まとめ
今回の座談会では幹細胞とは?という初歩から医療の現場での使われ方、美容領域における幹細胞の現在地までを深掘りしました。座談会全体のまとめはこちらです。
幹細胞とiPS細胞は別に考える:
幹細胞は、自分と同じ細胞を増やす力と別の細胞に変わる力を持つ細胞です。iPS細胞は、身体の細胞を人工的に初期化して作られたものとして整理できます。
医療では確立した治療もある:
造血幹細胞移植のように、すでに標準治療として行われている幹細胞治療もあります。一方で、条件付きで実用化されているものや自由診療・研究段階のものもあります。
美容では言葉の使われ方に注意:
美容領域で「幹細胞」と呼ばれていても、実際には幹細胞そのものではなく、幹細胞上清液やエクソソームなどを指すことがあります。言葉のイメージと実態のギャップに注意が必要です。
点滴は慎重に検討する:
幹細胞上清液の点滴は、皮膚だけでなく全身に成分が行き渡る可能性があります。効果の大きさだけでなく、リスクや安全性の説明を確認することが重要です。
信頼できる医師と体制を確認する:
検討する場合は、医師や医療機関が信頼できるか、製造・管理体制が整っているか、万が一の対応が可能かを確認することが大切です。
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